日本食品科学工学会誌
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54 巻, 8 号
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総説
技術論文
  • 市川 和昭, 藤田 奈々, 渡邉 紘子, 長谷川 静香
    2007 年 54 巻 8 号 p. 368-373
    発行日: 2007/08/15
    公開日: 2007/09/13
    ジャーナル フリー
    我々は鉄チオシアネート法を改良して,比色法でPV値を求める鉄チオシアネート新法(PV*法)を以前報告した.この方法の特徴は,(1)試料採取重量(g)と比色法での吸光度のみで,PV値を求めることができる.(2)少量の試料で測定できること.試料採取量は,0.01gから0.10g(標準採取量50mg)で,酢酸-イソオクタン法の試料採取量0.5~5gに比較して約50分の1である.またPV 0~100meq/kg(過酸化物量0~1000neq)の範囲が測定可能である.(3)10mLと少量の溶媒ですみ,酢酸-イソオクタン法の50mLに比較して5分の1でよい.(4)多数の試料をこなすことができる.(5)窒素ガスは不要である.(6)溶媒は蒸留して再使用できる4).本検討では,PV*法が少量の試料採取量で迅速にPVを測定できる簡便法であり,分析精度もPV法に比較して遜色ないことが確認できた.発色液の放置時間中における吸光度の変化について調査した.発色させてから50分後経過した時点から値が若干大きくなる傾向が認められたが,5分から30分の間で吸光度の変化はほとんど認められなかったことから,発色から吸光度測定までの最適時間は10分と考えられる.またヨードメトリー法で終点が判定しにくい焙煎ゴマ油やエゴマ油にも適用できる.PV*法はドレッシングのような食用油以外の油脂食品の酸化安定性試験への適用が期待できる.ただしPV*法は,PVが1~2あるいは1以下と低い場合に変動率が高くなる傾向があるので,低PV値での精度向上の検討を行う予定である.
研究ノート
  • 阿賀 美穂, 宮田 学, 牛尾 知恵, 吉實 知代, 有安 利夫, 新井 成之, 太田 恒孝, 福田 恵温
    2007 年 54 巻 8 号 p. 374-378
    発行日: 2007/08/15
    公開日: 2007/09/13
    ジャーナル フリー
    トレハロースが口腔内細胞を酸やタバコなどの傷害物質から保護するかについて検討した.培養ヒト細胞粘膜モデルに酸またはタバコ煙成分と同時にトレハロースを添加し,傷害の程度を形態的または定量的に評価した.その結果,トレハロースには,酸またはタバコ煙成分による傷害から細胞を保護する作用があることが示された.これらのことより,のど飴等へのトレハロースの配合添加の有用性が示唆された.
  • 北脇 涼子, 高木 尚紘, 岩崎 充弘, 浅尾 弘明, 岡田 早苗, 福田 滿
    2007 年 54 巻 8 号 p. 379-382
    発行日: 2007/08/15
    公開日: 2007/09/13
    ジャーナル フリー
    近年増加傾向にある高脂血症の予防食品として,血中コレステロール値低下作用が認められている豆乳とオカラを乳酸発酵させた食品「発酵オカラ豆乳」を作製した.当該食品の有効性を検討するため,豆乳,発酵豆乳,発酵オカラ豆乳で各々20%置換した飼料を高コレステロール食投与ラットに投与し血中および肝臓脂質濃度に及ぼす影響を調べた.血中総コレステロール濃度は豆乳,発酵豆乳投与群で対照群と比較して低下し,さらに発酵オカラ豆乳群では有意に連続的に低値を示した.肝臓コレステロール濃度はいずれの試験群も対照群と比較して有意に低値であった.また,豆乳投与群と発酵オカラ豆乳投与群で,肝臓トリグリセリドの蓄積抑制効果が認められた.以上より,豆乳の一部をオカラで代替した発酵オカラ豆乳は産業廃棄物オカラの有効利用という利点を持ち,かつ,オカラを含むことにより発酵豆乳よりも血中コレステロール濃度低下作用,肝臓トリグリセリド蓄積低下作用が促進することが認められ,高脂血症予防のための機能性食品として利用可能である.
技術用語解説
  • 檀 一平太
    2007 年 54 巻 8 号 p. 383
    発行日: 2007/08/15
    公開日: 2007/09/13
    ジャーナル フリー
    光トポグラフィは光を利用した脳機能計測法である.fNIRS(functional near-infrared spectroscopy,機能的近赤外分析法),光脳機能計測法など,様々な呼称があるが,いずれも同じ方法をさす.
    脳は領域によって機能が異なる.たとえば,目を開けて物を見れば,後頭部にある視覚野という領域の神経が活発に活動する.このような局所的な神経活動を,グリア細胞の一種であるアストロサイトが感知し,血管の拡張を引き起こす.これによって,局所的な血流量が上昇し,神経細胞の活動に伴う酸素補給を支える.この結果,脳活動時には,局所的血流量は増加し,新鮮な動脈血が流れることとなり,全体的には酸素化ヘモグロビン濃度が大幅に上昇し,脱酸素化ヘモグロビン濃度は減少する.
    光トポグラフィは,この脳血流動態変化を近赤外光によって計測する.頭皮上から脳へ光を当てると,一部の光は脳組織を通った後,反射して頭皮上に戻ってくる.光はヘモグロビンにより吸収されるため,この反射光の減衰度合いの経時的な変化から,脳内ヘモグロビン濃度の変化が分かる.
    光トポグラフィの利点は,非侵襲な脳機能計測中,最高レベルの測定の簡便さと自由度の高さである.fMRI(機能的核磁気共鳴撮像法)では,被験者を狭いスキャナーに拘束して計測を行う必要があるが,光トポグラフィは日常的な環境での計測が可能であり,多様な実験をサポートするという点で,脳機能計測法としてのポテンシャルは高い(図1).
    光トポグラフィの原型は1977年,米国,デューク大学のJobsisによる開発に遡るが,近年の急激な普及は,1995年,日立製作所の牧らによる多チャンネル計測技術の確立に拠るところが大きい.現在,数十チャネルからなる多チャネル計測器が,数千万円程度で購入可能である.
    脳の構造画像と機能画像が同時に得られるfMRIと異なり,光トポグラフィ単独では脳の構造画像の取得ができないという問題があったが,近年,筆者らは,計測点の位置情報を,コンピュータシミュレーションによって算出するバーチャルレジストレーション法を開発し,この問題を解決した.
    このような方法論の充実によって,近年,光トポグラフィ研究の適用範囲は広がりつつある.しかし,味覚感覚処理に関連する脳領域が脳の深部にあり,計測がほぼ不可能であるという理由により,食品研究への応用はこれまで遅れていた.しかし,筆者らは味覚の高次脳処理研究に光トポグラフィを応用し,味覚情報の記憶研究,官能評価中の脳機能モニタリングなど,先駆的研究を実施している.また,嚥下障害のモニタリングなどの臨床的な応用も進みつつある.
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