日本食品科学工学会誌
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56 巻, 11 号
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総説
報文
  • 高橋 誠, 島田 ほしの, 北本 大, 高良 健作, 和田 浩二
    2009 年 56 巻 11 号 p. 573-578
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    新しいタイプの機能性食品の開発を目的として,食品用レシチンを用いて,クロレラエキスを内包するリポソーム(LEC)の調製を行った.得られたLECを含む飼料で高血圧自然発症ラット(SHR)を長期飼育し,その血圧上昇抑制作用について検討した.また併せて,クロレラエキス中の活性成分およびLECにおける血圧上昇抑制の作用機序を推察するため,ACE阻害活性の測定を行った.
    (1) 超高圧ホモジナイザーの処理条件を100MPa, 1パスとして調製したLECの膜構造は1枚膜であり,リポソームの平均粒子径は150±32nmであった.
    (2) 連続投与試験において,クロレラエキス投与群では対照群と比べて収縮期血圧の有意な差を認めなかったが,LEC投与群では有意な収縮期血圧上昇の抑制が認められた.
    (3) クロレラエキス中の血圧上昇抑制に関与する成分はACE阻害活性を有するペプチドであると考えられた.また,クロレラエキスは人工消化液処理による著しい活性低下を示した.
    以上の結果から,LECの摂取ではクロレラエキスのリポソーム化によって消化酵素による分解が抑制されたために,SHRに対する血圧上昇抑制効果を示したと考えられた.
  • 大井 友梨, 並木 利文, 片田江 道, 塚原 寛樹, 北村 晃利
    2009 年 56 巻 11 号 p. 579-584
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    アスタキサンチン高含有のヘマトコッカス藻色素の添加により,パンの基本物性,色調,風味に及ぼす影響について,無添加パンとの比較により検討し,以下の結果を得た.
    (1) ファリノグラフ試験の結果より,添加および無添加の両試験区でほとんど差がなく,小麦粉300gに対してアスタキサンチン製剤380mgの添加が生地特性に及ぼす影響は認められなかった.
    (2) パンの体積および比容積は,アスタキサンチン製剤0.02%,0.04%,0.08%添加区で,無添加区と比較して有意な変化はなかった.
    (3) 品質審査より,形均整,表皮質,すだち等の物理的特性,およびその他,味,香り,触感等において,アスタキサンチン製剤0.02%,0.04%,0.08%添加による影響は,ほとんど認められなかった.
    (4) 外観および内観については,アスタキサンチン製剤の添加量に応じて明るく自然な橙色の色調が付与された.
    (5) 強度測定試験によりパンの老化について評価した結果,アスタキサンチン製剤0.02%,0.04%,0.08%添加で,無添加と比較して有意な差は認められなかった.
    (6) 最高量添加区の焼上後のパンからのアスタキサンチン回収率は96.2%であり,添加したアスタキサンチンが,発酵および焼上を経てもほとんど分解を受けることなく,焼上後のパン中に極めて良好に保存されることが確認された.
    以上の結果より,有効量のアスタキサンチンを現実的に摂取するのに必要な濃度でヘマトコッカス藻色素製剤をパンに添加しても,パンの品質に対して特に問題となる影響は全く認められず,アスタキサンチンの機能性を付与したパンができることを明らかにした.
  • 高木 尚紘, 北脇 涼子, 西村 侑子, 原田 智子, 岩崎 充弘, 都築 公子, 福田 滿
    2009 年 56 巻 11 号 p. 585-590
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    発酵オカラ豆乳,グアガムおよび発酵オカラ豆乳とグアガムを混合したものをSD系雄性ラットに与えたとき,体重,摂餌量,摂餌効率および糞重量において各群間に有意差は認められなかった.盲腸重量は3種の置換食投与群がC群に比べ有意に高値となった.一方,盲腸内容物における酪酸濃度はC群G群と比較してF群において有意に高値を示した.オカラ豆乳の乳酸発酵でポリアミン濃度が増加した.盲腸内ポリアミンのスペルミジン濃度はGF群で他群と比較して有意に高値を示した.スペルミン濃度は各群間に有意差は認められなかった.以上の結果から,乳酸発酵オカラ豆乳は盲腸内短鎖脂肪酸の産生量を増加させた.盲腸内短鎖脂肪酸とポリアミンの微生物産生量への影響はグアガムのような他の食物繊維の有無により影響を受けると示唆された.
  • 高橋 亮, 平島 円, 谷田 陽子, 西成 勝好
    2009 年 56 巻 11 号 p. 591-599
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    DMSO法を用いてアガロペクチン(AP)高含率試料から純度の高いAPを精製した.寒天および精製したAPを用いて,示差走査熱量測定およびレオロジー測定により寒天のゲル化に対するAPの役割について検討した.精製度が低いAPでは系中にわずかに含まれるアガロース(AG)の会合・凝集によりゲルを形成したのに対し,精製度の高いAPは単独ではゲル化能を持たず,ゲルを形成しないことがわかった.また,精製度の高いAPは,ゲル化能がないにもかかわらず,寒天のゲル形成を阻害するわけではなく,むしろAGのネットワーク形成を助ける働きを持つことがわかった.以上の結果から,寒天のゲル形成がAGの会合・凝集のみによるものではなく,APがAGの3次元ネットワークを補強することで寒天ゲルの特性に大きな影響を与えることが示唆された.
研究ノート
  • 菅原 哲也, 五十嵐 喜治
    2009 年 56 巻 11 号 p. 600-604
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    山形県にて栽培されている食用キク,4栽培品種(イワカゼ,コトブキ,モッテノホカ(黄色花弁),モッテノホカ(紫色花弁))について,主要なフラボノイドを定量するとともに,その成分組成とDPPHラジカル消去活性との関係を明らかにした.
    食用キクのフラボノイド構成は品種により大きく異なっていた.また,ポリフェノール画分のラジカル消去活性はモッテノホカ(黄色花弁)において最も強く,次いでコトブキ,イワカゼ,モッテノホカ(紫色花弁)における順であった.いずれの食用キクにもルテオリン7-O-(6″-O-マロニル)-グルコシド,アピゲニン7-O-グルコシド,アピゲニン7-O-(6″-O-マロニル)-グルコシド,アカセチン7-O-(6″-O-マロニル)-グルコシドが含まれていたが,このうち,最も強いラジカル消去活性を示すルテオリン7-O-(6″-O-マロニル)-グルコシドはモッテノホカ(黄色花弁)において最も含有量が高く,次いで,コトブキ,イワカゼ,モッテノホカ(紫色花弁)の順で高い値を示した.一方,ラジカル消去活性の弱いアカセチン7-O-(6″-O-マロニル)-グルコシドおよびアピゲニン7-O-(6″-O-マロニル)-グルコシド含有量はそれぞれ,イワカゼ,モッテノホカ(紫色花弁)において高い値を示した.
技術用語解説
  • 太田 尚子
    2009 年 56 巻 11 号 p. 605-606
    発行日: 2009/11/15
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    魚肉タンパク質は,中性塩溶液に対する溶解性に基づき,イオン強度0.05以下の塩溶液に可溶な水溶性タンパク質(Water Soluble Protein : WSP),イオン強度0.5の塩溶液に可溶な塩溶性タンパク質(Salt Soluble Protein : SSP)およびこれらの塩溶液に不溶な不溶性タンパク質に分けられ,それぞれ筋形質(sarcoplasmic protein),筋原繊維(myofibrillar protein),筋基質(stroma protein)タンパク質と呼ばれている1)2).WSPは主として解糖系酵素,パルブアルブミン,ミオグロビン,クレアチンキナーゼなどから構成され,魚肉タンパク質中20~50%を占める良質タンパク質であるが,蒲鉾や竹輪等の弾力性(あし)の低下を招く為に大部分が加工時の水さらし工程で廃棄されている現状にある.わが国の平成17年の水産動植物を主原料とした食用加工品の年間生産量は209万493トンで,平成20年現在の練り製品の国内生産量はおよそ60万トンである3).練り製品中のタンパク質量は平均13%程度であるため,魚肉タンパク質における各タンパク質の存在割合を考慮すると,練り製品の生産工程で年間およそ4~5万トンものWSPが廃棄されていると見積れる.国の水産物未利用部位利用技術の開発で,魚の頭部を用いた魚醤油の製造などが試みられているが4),未だ未利用資源であり基礎研究も数少ないのが現状である.
    このような背景の中,WSPの有効利用のための基礎研究として太田ら5)により,アマダイ(標準和名,学名アカアマダイBranchiostegus japonicus, スズキ目アマダイ科)からそのWSPが回収され,レオメーターによる魚肉水溶性タンパク質濃縮物(Water Soluble Protein Concentrate : WSPC)の物性測定がなされた.WSPC単独では線形範囲(応力と歪が比例する領域)を求めることができない非常に不均質な分散系であることが明らかになっている(図示せず).しかしWSPCに脂肪酸塩(Fatty Acid Salt : FAS)を添加して乳化を試みたところ(図1a),WSPCの線形範囲が,乳清中の主要タンパク質として高度に利用されているβ-ラクトグロブリン(β-LG)のそれに匹敵するようになると結論づけられた.
    次に7% WSPCと7% β-LGの混合タンパク質を試料とし,タンパク質・FAS混合系のレオロジー的性質に対する常温下(25℃)でのインキュベーション効果を解析したところ,およそ26時間でゾル-ゲル転移が観察され,更に約1週間で貯蔵弾性率がおよそ1000Paに達することが明らかになった(図1b).また,同時にこのゲル状凝集体は,β-LG単独系よりも長い線形範囲を持つ均質性の高い粘弾性体である事が示されている(図1c).
    また近年,環境保全の観点から生分解性フィルム調製の研究が盛んになっている.Iwataら6)はWSPCを用いたフィルムの創出を行っている.一般に,単独の天然材料からつくられるフィルムは物理化学的適性を欠くことが多いため,多種成分(ハイドロコロイド,油脂,他のカテゴリーに属する結着剤によってつくられたコンポジット剤)を組み合わせたフィルムを調製する.彼らは,3% WSPが1.5% グリセロールを可塑剤としてpH10にて70℃ 15分間の加熱により他のタンパク質フィルム(大豆やカゼインなどのフィルム)に比べて水蒸気バリヤー性の高い柔軟性に優れたフィルムを形成することを示した.
    以上,WSPの利用にあたってはFASやグリセロール添加等,可塑性を付与することがその機能特性向上に効果的である事が判りつつある.コスト面など予想される問題は残るが,人や環境に優しいもの作りを考える上で今後の開発が益々期待される.
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