本研究では,一次仕込時の添加酵母としてセルレニン耐性およびカプロン酸エチル高生産性酵母であるS4を用いて,差し酛を反復した際の醪におけるセルレニン耐性を指標としたS4の酵母純度の変化について検討した結果,酵母純度は差し酛の反復により低下し,それに伴いカプロン酸エチル濃度が減少した。差し酛を行った焼酎醪から分離したセルレニン耐性株(WR1)は,比増殖速度,カプロン酸エチル生成能,セルレニン培地における生育性,α-MGを炭素源としたTTC染色,硫酸銅含有培地における生育性および倍数性の一致から,一次仕込時に添加した酵母であるS4であることが確かめられた。一方,セルレニン感受性株(WS1)は,ITS領域の相同性解析の結果から
Saccharomyces cerevisiaeであることが明らかになったが,S4とは異なる特徴を持つ酵母であった。また,S4とWS1を混合した小仕込試験によってセルレニン耐性を指標とした醪管理について検討した結果,スターター醪への適切な酵母添加を行うことで差し酛反復時における純度を高く維持できるが,仕込時に添加したカプロン酸エチル高生産性酵母よりも比増殖速度の速い野生酵母(比増殖速度にして1.2~2.4倍までの野生酵母)が侵入した場合,カプロン酸エチル含量を高く維持するためには一次醪3日目のセルレニン耐性酵母純度が50%以上必要であることを示した。以上の結果から,焼酎醪での差し酛の反復において,セルレニン耐性を指標とすることで,添加したセルレニン耐性酵母の挙動と酵母純度の推移および野生酵母の醪への侵入の動態をとらえることができるので,醪管理に寄与できることを明らかにした。
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