嗅覚情報変換の第一段階は,匂いを感じる神経細胞である嗅細胞の直径100-200nmという微小な生体構造体で行われている。可視光線の波長よりも小さな部位であるため,そのメカニズムは長らくの間,謎であった。しかし,今世紀に入った頃からナノレベルの生物構造体内の化学反応を測定する技術が確立してきたことで過去からの多くの疑問点が解決されつつある。
著者らは,人類が嫌なにおいをよい香りによって減弱させるために経験的に利用してきた嗅覚マスキングの分子メカニズムについて研究され,嗅覚情報伝達チャネル抑制がその一端を担うらしいこと,また,同様のチャネル抑制物質が食品中で発生すると食品の質を著しく低下させることを明らかにされた。
本解説では,我々の嗅覚受容に劇的に影響を与える化学物質,トリクロロアニソール(2,4,6-Trichloroanisole,TCA)について,知見を紹介いただいた。
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