1)亜硝酸消失に関わる微生物の探索を行うため,酒造場3場より恵与された麹を用いての亜硝酸消失試験を行った。
2)サンプル麹2種は,亜硝酸の消失が見られた。さらに亜硝酸消失は,麹に付着している微生物が関与していた。
3)麹から4タイプの酵母と48株の乳酸菌を分離した。Type 1の酵母は1mMの亜硝酸イオンを98%消失させた。
4)Type 1の酵母は細胞の形は卵型で,増殖形態は多極出芽で,偽菌糸形成はなく,レモン型の内性胞子を形成した。資化性および発酵性と26S rRNAをコードするDNAの塩基配列からPichia angustaと同定し,今後Pichia angusta Y-11393株とし,実験に供した。
5)Pichia angusta Y-11393株は亜硝酸を酸化させ,硝酸へと変換することで,亜硝酸を除去していた。
6)本株は1~5mM亜硝酸までは良好に増殖した。しかし,亜硝酸濃度10mM以上では,増殖阻害がみられた。このとき,1~5mM亜硝酸は2日目以降,良好に分解され,4日目の亜硝酸残存率が6~16%であった。実際の生?系の亜硝酸含有率は0.3mMで,本株で十分分解できると考えられた。
7)本株は,エタノール含有と酸性条件では,生育できなかった。ゆえに酒母中の亜硝酸消失に関係し,その後の醸造工程に影響するものではないと推察された。
8)モデル生?系でのL.sakeiと本株を混合培養した結果,亜硝酸耐性のない乳酸菌は,本株の酵母によって亜硝酸が除去され,酸菌が生育できた。その後,乳酸菌が生産する乳酸等により,本株の死滅率は増加した。
9)本株は105~107(cells/mL)オーダーの対数増殖期中期~後期の少ない菌体でも亜硝酸消去能を有することが明らかとなった。
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