1.セルレニン耐性酵母S4と野生酵母WS1の混合一次仕込を行い,野生酵母が醪に侵入したことを想定した差し酛反復試験を行った結果,麦麴醪ではS4の酵母純度比が低下する一方,米麴醪では上昇する場合があることを明らかにした。
2.上記1の理由を明らかにするため,米麴と麦麴の違いがS4とWS1に与える影響を詳細に調べたところ,一次醪初期に生成するグルコース,ホルモール態窒素及び多くのアミノ酸,特にアルギニンが麦麴よりも米麴で多いことがわかった。
3.継代培養を反復したとき,一次醪初期の米麴醪を想定した環境(高窒素環境)でのS4の酵母純度比は麦麴醪を想定した環境(低窒素環境)よりも高く推移した。さらにアルギニンを麦麴醪仕込時に添加すると,差し酛の反復によりS4の酵母純度比が対照(アルギニン無添加)よりも高く推移した。また,一次醪中期を想定した米麴醪環境(高グルコース及び高エタノール環境)においても麦麴醪中期に近い環境(低グルコース及び高エタノール環境)よりもS4の酵母純度は高かった。S4の差し酛反復において高い酵母純度を維持するためには,醪初期は高窒素の環境が必要で,特に窒素源としてアルギニンが寄与しており,醪中期は高濃度グルコース及び高濃度エタノールが必要であり,それぞれの環境において競合する酵母よりも速い増殖速度が必要であることが明らかとなった。
4.S4はWS1よりも細胞膜H
+-ATPase活性が高く,ストレス耐性が高いことが明らかになり,麦麴醪よりストレスが高い米麴醪においてS4がWS1よりも優勢となったと考えられた。
5.S4の酵母純度比が上昇した米麴醪において最も多かったアミノ酸はアルギニンであり,その資化性は焼酎酵母よりも清酒酵母で高い傾向がみられ,焼酎酵母と清酒酵母の交雑株であるS4は,清酒酵母のアルギニン高資化性を遺伝的に受け継いでいるものと推察された。
なお,本研究で示された米麴と麦麴から溶出する成分の差異及びこの差異の焼酎酵母と野生酵母に対する現象が一般的なものであるかどうかについては,実験データをさらに積み重ねる必要があると考えている。
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