富山県高岡市産大麦麦芽より醸造に適した「とやま産まれの酵母」を分離した。本菌株はITS領域解析の結果,
Saccharomyces cerevsiae NBRC2114(Kotobukiya whisky No. 1)に最も近い配列を有することが明らかとなった。清酒小仕込み試験による醸造特性解析の結果,とやま産まれの酵母のもろみ日数はK701よりも3日長くなったものの,両者の到達アルコール濃度はほぼ同じ18%であった。K701と比較し,有機酸組成では酢酸,リンゴ酸,コハク酸の含有量が顕著に異なっており,揮発性物質では高級アルコール含量が高く,エステル類の含量が低かった。アミノ酸度はとやま酵母の方が顕著に高かった。これらの性質が官能特性評価にも現れており,K701に比較して,酸味の違いや,旨み,重い,雑味などの味の多さに特徴がある個性的な酒質であった。
とやま産まれの酵母による実地醸造は成政酒造にて,これまでに5回行われており,試行錯誤の末,現在では比較的濃醇でキレのある酒質となっている。また,本酵母は野生酵母で特定の酒類醸造に特化した育種もなされていないため,富山県地域のクラフトビール,ワイン,ウイスキーの醸造にも利用されるに至っている。
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