低酸度麹にクエン酸を添加することで,出麹酸度2.4〜20に相当する芋焼酎もろみを造り,そのもろみと製品の特性を調べ,以下の知見を得た。
1.一次もろみにおいて,一次もろみ酸度の低いもろみではアルコール濃度が18%と非常に高かったため酵母の生菌数が少なかった。一方,一次もろみ酸度の高いもろみでは,添加したクエン酸の影響で発酵が遅れた。
2.二次もろみでは,一次もろみ酸度が低いもろみの立ち上がりが遅れたが,最終的にすべてのもろみの揮発酸度,直接還元糖,残全糖およびアルコール濃度に大差がなく,出麹酸度20相当のもろみでもアルコール発酵が健全に進行することがわかった。
3.出麹酸度10相当および出麹酸度20相当の一次もろみにおいて,クエン酸がアルコール発酵の過度な進行を抑えている可能性が示唆された。その働きにより酵母の生菌数が維持され,二次もろみが速やかに立ち上がったと考えられる。
4.製品において,イソブチルアルコール,イソアミルアルコールおよび
n-プロピルアルコールは一次もろみ酸度が高くなると高濃度になる傾向にあった。このことから,一次もろみ酸度が酵母における高級アルコールの代謝系の一部に影響することがわかった。
5.製品において,柑橘香がするリナロールと甘い香りのβ-ダマセノンは一次もろみ酸度が高くなるほど高濃度となった。これは蒸留時のもろみ酸度が影響していると推察された。
6.一次もろみ酸度が低い製品は濃厚で香ばしく甘い香りがあり,一次もろみ酸度が高い製品は軽快,華やかでキレがよくなる傾向にあり,一次もろみ酸度の高さが酒質に影響を与えていた。
7.一次もろみ酸度には麹のクエン酸含量が大きく影響することから,出麹酸度が10を大きく超える麹菌の育種・利用が芋焼酎の酒質のさらなる多様化につながると考えられる。
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