肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり,BMI 25以上であれば肥満と判定される。肥満症は,肥満に起因する疾患を保有するか,あるいはそれらの疾患を起こしやすい内臓脂肪の過剰蓄積があれば診断され,減量治療を必要とする病態である。日本では,肥満症は疾患単位として扱われる。
健常な脂肪組織では,小型脂肪細胞が炎症抑制性サイトカイン(アディポカイン)を分泌している。脂肪組織,特に内臓脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積すると,炎症促進性サイトカイン(アディポカイン)が増え,脂肪細胞はアポトーシスを起こす。アポトーシスを起こした細胞の周囲にマクロファージが侵入し炎症を起こすと,炎症促進性サイトカインの分泌が高まる。炎症促進性サイトカインが全身に慢性的に拡散されると,糖尿病や,脂質異常症,高血圧等の生活習慣病が起こり,動脈硬化性疾患やがんに発展する。ウイルス感染等で内臓脂肪組織に炎症が生じると,炎症促進性サイトカインが大量,且つ急性的に拡散するのでサイトカインストームが起こり,重症化の原因となる。
内臓脂肪過剰蓄積は炎症を容易に生じ,炎症の拡大は健康や生命にとって脅威となる。その予防,治療のため,肥満,肥満症では減量治療が必要である。
β-グルカンを含む大麦を摂取したヒト介入試験では,1)食後血糖上昇の抑制,2)高コレステロール血症の男性における血清LDLコレステロール濃度の低下,3)内臓脂肪面積100cm2以上の男女における内臓脂肪面積の減少という肥満関連指標の改善が認められ,大麦摂取が肥満関連指標の改善に有効であることが実証された。動物実験では,β-グルカンの分子量に依存する大麦の消化吸収抑制と,腸内細菌による発酵産物である短鎖脂肪酸による糖・脂質代謝の改善がそのメカニズムと考えられた。大麦摂取による糖代謝の改善は,糖の吸収遅延やGLP-1などの消化管ホルモンによるところが大きく,遺伝子発現の変化によるものは少ないと推測された。一方,肝臓や血清中のコレステロール濃度の低下は,腸内発酵による短鎖脂肪酸の増加により,HMG-CoA還元酵素を含むコレステロール生合成に関わる遺伝子の発現レベルが抑制されたためではないかと推測された。
β-コングリシニンは大豆タンパク質を構成するタンパク質の一つで,大豆タンパク質全体よりも明確に体脂肪低減作用および肝臓トリグリセリド濃度低下作用を示すことが知られている。β-コングリシニンはラットの血清アディポネクチン濃度を上昇させることも知られている。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの一つで,脂質代謝を改善し,インスリン感受性を高め,血圧を抑制するなど多くの作用を示すことが知られている。そのため,β-コングリシニンを摂取することでもこれらの多様な機能が発揮される可能性がある。肥満モデル動物であるOLETFラットを用いた摂食試験では,β-コングリシニンは,対照のカゼインに比べ,腸間膜脂肪組織重量および肝臓トリグリセリド濃度を低下させ,インスリンへの応答を改善した。高血圧自然発症ラットを用いた摂食試験では,β-コングリシニンはカゼインに比べ,血圧(収縮期および拡張期)の上昇を抑制した。そしていずれの場合も,β-コングリシニンの摂取により血中のアディポネクチン濃度は上昇した。これらの知見は,β-コングリシニンが多様な生理機能を有し,メタボリックシンドロームの改善に有益な食品成分となり得ることを示唆している。