Heart rate turbdence(心拍攪乱,HRT)は,心室期外収縮(VPC)直後に洞調律が1,2拍促進され,次いで緩徐になる現象で,具体的にはVPC後3~4秒以内にRR間隔短縮のピーク,凡そ9秒後にRR間隔延長のピークが見られ,12~15秒後に元のRR値に戻る.HRTの判定に用いる指標はVPCに伴う代償性休止期後のRR短縮量TOとそれに続くRR延長の速度TSで,TO<0%,TS>2.5ms/心周期を正常,TO>0%,TS<2.5ms/心周期を異常と見なす.本現象の臨床的意義は主として急性心筋梗塞後患者の生命予後推定に有用な情報を提供することにあり,例えばいくつかの多施設共同大規模臨床試験において,総ての死亡を一括した場合,TO,TSがともに異常な症例はこれらが正常の症例に比し,相対危険率が3倍以上になったという成績が出されている.
HRTの大まかな発生機序は,VPCに伴う一過性の血圧低下が圧受容体を刺激,反射弓を介して洞頻度増大(RR短縮)をきたす一方,代償性休止期後の洞性心拍の血圧上昇が同じく反射弓を介して洞頻度低下(RR延長)を招くことで説明されるが,詳細な機序はまだ不明な点が多い.本総説ではTO,TSの算出法と計測上の注意点,生命予後推定におけるHRTの感度,各種のHRT修飾因子(心拍数,VPCの連結期,心筋灌流量,他の自律神経機能諸指標)などを解説し,VPCによる房室伝導時間の攪乱や新しい指数のheart rate harmony(心拍振動)にも触れた.
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