患者は56歳の男性, 30年来糖尿病がありインスリンを使用していた. 1977年, 79年, 81年に原因不明のうっ血性心不全として入院加療, 1981年5月には高度の房室ブロックのためペースメーカー植え込みをうけ, 同年7月当科へ転院した. 入院時,血圧は正常, 心音では第3音, および収縮期雑音を聴取した. 浮腫はなかったが, 腱反射の消失, 振動覚の低下あり, 心胸隔比56%, 心電図は完全左脚ブロックであった. 入院後, 心不全を繰り返し, 肺炎も併発し, 第55病日に死亡した. 剖検にて心重量580g, 左室は中等度拡張, 心室中隔, 両室自由壁は肥厚し, 割面で全周性に大斑状の線維化巣を認めた. 冠動脈は著変がなかったが, 組織学的に心筋の肥大, 錯綜配列, 間質および血管周囲性の線維化, ならびに心筋内小動脈の内膜肥厚, 内腔の狭小化を認め, 1974年, Hambyが命名した, いわゆる糖尿病性心筋症に相当する所見を呈した.
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