心膜中皮腫は極めて稀な疾患であり, 生前の診断が困難なうえ, 有効な治療法も確立されていない予後不良な疾患である. 今回われわれは, 急激な経過で全身状態が悪化し, 診断に難渋した肉腫型心膜中皮腫の症例を経験したので報告する. 症例は78歳, 女性. 咳嗽と呼吸困難を主訴に近医を受診し胸水貯留を確認され紹介となった. CTで心嚢液貯留, 心膜に充実性腫瘤を認め, 当院へ精査加療目的に入院となった. 心膜開窓術・腫瘍生検を予定していたが, 数日の経過で全身状態が悪化したため, 中止となった. 10日後のCTでは心膜に沿って急速に腫瘍が進展する所見を認め, 1日1,000mL以上の胸水が貯留したため, 心嚢, 胸腔内に対し持続ドレナージを行った. 経過, 画像所見から悪性腫瘍が疑われ, 細胞診も提出したが診断は不明であった. その後, 全身状態が悪化したため化学療法や放射線療法を行うことはできず, 最終的に緩和的医療へと移行した. 疼痛や呼吸苦に対し, 麻薬系鎮痛薬を使用したが, 多臓器不全, 心臓拡張不全のため入院約1カ月後に死亡した. 死後の組織剖検を行い, 免疫染色により肉腫型心膜中皮腫と診断した. 心臓悪性腫瘍でも心膜中皮腫は発症頻度が極めて稀で, 進行が速く生前診断は困難とされている. 本疾患を診断し治療介入するためには, 全身状態が維持されている早期の段階で開胸生検を行い, 免疫染色で組織学的に診断することが重要であると思われる.
抄録全体を表示