背景:A型急性大動脈解離は全身性炎症反応症候群や急性肺障害(acute lung injury;ALI)を発症することによる高度の呼吸不全を起こすことがあり,morbidityやmortalityを高める原因となっている.今回,当施設における急性大動脈解離術後のALIについて検討したので報告する.
対象:最近2年間で施行したA型急性大動脈解離手術22例(男性6例,女性16例) を対象とし,平均年齢は67.1±2.7歳であった.全例,診断されて24時間以内に緊急手術(脳分離体外循環下に上行大動脈人工血管置換術)を施行した.術後,ALIの有無は診断基準により確定し,適宜薬物治療(シベレスタットナトリウム)を行った.
結果:病院死亡は全体では1例(1/22例,4.5%)で,ALI発症は14例(14/22例,63.6%)であった.ALI発症の有無による検討で,補助循環で超低体温法を用いた症例,人工心肺・手術時間がより長い症例においてALIの発症が多く(p<0.05),病型,術前因子においては有意差を認めなかった.シベレスタットナトリウムの投与はALIの改善に有効で,人工呼吸器の離脱を促進させた.
結語:本研究では,急性大動脈解離術後のALIは外科的侵襲の増大により発症しやすく,より迅速かつ的確な手術工夫を行っていくことが肝要と思われた.また,ALI発症時には,早期にシベレスタットナトリウム投与も有効であった.
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