冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting ; CABG)後 の再手術ではグラフトが開存している場合,胸骨再切開時にグラフト損傷の危険性が高い.今回,低左心機能のCABG後虚血性僧帽弁閉鎖不全症例に対し,右開胸心拍動下で僧帽弁置換術を実施した.症例は60歳,女性.6年前に心筋梗塞(右冠動脈#2)後の不安定狭心症に対しCABG手術(左内胸動脈-左前下行枝(#7),大伏在静脈-左前下行枝(#6),大伏在静脈-対角枝左回旋枝#13)を施行したが,その後僧帽弁閉鎖不全症が進行し,症状増悪のため再入院となった.心エコー検査では,tetheringによる重症僧帽弁閉鎖不全を認め,左室の後壁基部から心尖部にかけて広範な壁運動の低下を認めた.左室造影検査で,左室拡張期/収縮期末期容量係数:101/78mL/m
2と左室は拡大し,左室駆出率は24%と低下していた.冠動脈造影検査では,左前下行枝への左内胸動脈と対角枝に吻合した静脈グラフトが開存していた.本症例に対し,グラフト損傷を回避するため,右開胸心拍動下に僧帽弁置換術を実施した.術後経過は,第2病日に除細動に抵抗性の心室細動が出現したため,一時的な経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support ; PCPS)補助を要した.また,仙骨部褥瘡の治療のため入院期間は延長したが,術後4カ月後に独歩退院となった.術後10カ月経過した現在,NYHA(New York Heart Association)機能分類I度まで回復している.低左心機能を有するCABG後の僧帽弁閉鎖不全症に対する右開胸心拍動下僧媚弁置換術は,術中のグラフト損傷を回避でき,体外循環/心停止に伴う再灌流障害を防止し得る点で有効であると思われた.
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