背景:Brugada症候群における心室性不整脈イベントにおいて就寝中や食後などの副交感神経活性との関連性が示唆されている.しかしながら不整脈発生時の状況およびtriggerとなる生活要因に関して,いまだ不明な点も多い.われわれはBrugada症候群における不整脈イベントの発生状況を検討した.
方法:当院で植込み型除細動器(ICD)植込み術を施行したBrugada症候群連続32例を対象にICD適切作動を認めた患者背景を検討した.心室性不整脈に対しての適切作動を起こした9例と作動のなかった23例を比較検討した.
ICD植込み前を含め心室性不整脈のみられた11例においてイベント発生時の血清カリウム値の関連について検討した.
結果:適切作動と習慣性飲酒の関連性について検討した結果,適切作動群において有意に習慣性飲酒を多く認めた(適切作動群89% vs 非作動群35%,p=0.002).適切作動イベントに関するKaplan-Meyer生存曲線では,習慣性飲酒のある群において有意に適切作動を認めていた (Log rank 8.06,p=0.0045).またICD植込み時と比して心室性不整脈発生時には有意に血清カリウム値が低かった(血清K濃度4.4±0.2 vs 3.4±0.4 mmol/L,p<0.0001).
結論:Brugada症候群における不整脈イベントと飲酒との関連性を認めた.低カリウム血症が不整脈イベントの一因であるかどうかは不明であるが,就寝前の高炭水化物食の摂取やアルコールの摂取が不整脈イベントに関係している可能性が示唆された.
症例は生後1日目の男児.胎児心エコー検査で著明な心拡大を伴う重度三尖弁逆流と診断.高度心拡大による肺の低形成が疑われ,出生後の呼吸不全が懸念された.出生前に他科診療科と綿密に連携を取り,出生時の対応や手術戦略を協議した.母胎入院管理後,在胎38週4日予定帝王切開で出生.出生直後挿管し,人工呼吸器管理を開始した.胸部X線検査で心陰影は“wall to wall”と著明に拡大し,肺の圧排を認めた.重度三尖弁逆流を伴う高度三尖弁異形成と解剖学的肺動脈閉鎖と診断し,内科的治療を行った.安定した状態で出生翌日Starnes手術を施行した.孔付き三尖弁パッチ閉鎖,心房間交通拡大,右心房縫縮,動脈管閉鎖とBlalock-Taussig変法術を行った.術後76日目に軽快退院し,生後8カ月に両方向性Glenn手術を行った.現在Fontan手術待機中である.重症心疾患を有する胎児治療には出生前後の管理や手術戦略が重要であると考えられた.
症例は33歳,女性.数年前より高血圧を指摘されるも無治療であった.X年1月中旬突然の胸背部痛を主訴に救急受診.造影CTにてStanford B偽腔開存型急性大動脈解離と診断した.血圧は来院時216/146 mmHgであったが,左右差なく下肢の血圧低下もなかった.保存的加療にて大動脈解離の進展や拡張を生じることなく経過するも偽腔は開存のままであった.身長154 cm,体重66 kgの肥満体型で,満月様顔貌,赤紫色皮膚線条,水牛様肩などを認めたことから,高血圧の原因精査をしたところ,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)やコルチゾールの高値とともに頭部MRIで下垂体腺腫が明らかとなり,本症例がACTH依存性Cushing症候群と判明した.Cushing症候群は,本症例のごとき大動脈解離発症の基礎疾患となりうる可能性があり,若年性高血圧症を伴う肥満症例における早期の的確な診断と管理が重要と考えられた.
今回,われわれはCushing症候群の若年女性に発症したStanford B型急性大動脈解離を経験した.Cushing症候群に急性大動脈解離を併発した症例の報告はわずかしかないが,動脈解離との因果関係を考える上でも興味深い症例と考えられ若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は74歳,男性.10年前に前壁のSTEMIを発症し,左冠動脈主幹部(LMT)〜左冠動脈前下行枝#6にかけてBMS(Driver 3.0×18 mm)を留置している.その後,LMT入口部の高度狭窄に対しても,PCI(Cypher 3.0×13 mm)を行っているが,2年前から内服薬を自己中断していた.今回,1時間前から持続する胸痛で救急搬送された.血圧60/42 mmHgのショック状態であり,心電図はwide QRS,Ⅰ,aVR,aVL,V2-5でST上昇,心エコーで左室前壁〜側壁にかけて壁運動低下を認めた.左室広範囲のSTEMIと診断し,緊急冠動脈造影検査を施行したところ,LMTの完全閉塞を認め,大動脈内バルーンパンピング下にPCIを施行した.急性期は循環動態が不安定で多量のカテコラミンを必要としたが,徐々に安定し,第42病日に近医へ回復期リハビリテーション目的で転院となった.今回,LMTに留置したBMSの超遅発性ステント血栓症に対して緊急PCIを行い,救命し得た1例を経験したので報告する.
症例は血痰を主訴に来院した68歳の男性.全弓部置換術,下行大動脈置換術,腹部大動脈瘤置換術の既往がある.CT画像上,下行大動脈左側に接して液体貯留を認めた.24時間後のCTで急速な液体の増加と人工血管背側で造影剤の漏出を認めたため,人工血管仮性瘤と診断した.直達手術は一般的にリスクが高いため,TEVARを施行し,経過は良好であった.
人工血管自体の破綻の原因として人工血管自体の拡大,劣化と外的接触があげられる.本症例は下行置換術施行時に2肋骨を背側で離断している.CT上人工血管と肋骨離断面は直接接触していないが,造影剤漏出部の近位に変形した肋骨を認めたため,機械的刺激が原因である可能性は否定できない.
TEVARは低侵襲ではあるが,直視下に状態を確認することができない.破裂の原因が肋骨離断面の接触であれば,断端処理のできないTEVARは根本的な解決にはならないが,原因を特定できない以上容易に直達手術に踏み切ることは難しい.また血痰が主訴である本症例は,人工血管気管支瘻,感染性動脈瘤の鑑別も必要であり,精度の高い画像診断と再手術を念頭に入れた慎重な経過観察が重要である.
症例は50歳,女性.左手しびれを主訴に近医受診,両側散在性脳梗塞と診断された.翌日,突然の左背部痛を自覚し当院救急を受診,検査所見より急性心筋梗塞を疑い緊急冠動脈造影を行ったところ,左前下行枝末梢に塞栓像を認めた.塞栓検索のため実施した経食道心エコーで僧帽弁に10 mm大の疣贅を認めた.腹部CTで左卵巣腫瘍が確認されたが,炎症所見もありIEと診断し,疣贅除去手術を実施した.術後4週目僧帽弁に疣贅再発を認めた.疣贅の病理所見は非細菌性炎症組織であった.卵巣腫瘍に伴うNBTEと診断し抗凝固療法を行い,疣贅は2週間で消失した.同時に卵巣腫瘍の集学的治療を実施した.1年半の経過でNBTEの再発は認めていない.心脳卒中は脳卒中と心筋梗塞が同時期に発症する稀な病態であるが,NBTEによる多発性塞栓が原因であることも考慮し,全身精査を行うことが重要である.
症例は61歳の男性.既往に糖尿病,閉塞性動脈硬化症がある.糖尿病による慢性腎不全のため17年前より維持透析を導入されている.定期検査の心エコー図検査にて,左室側僧帽弁前尖基部に付着した,左室内と大動脈内を行き来する線状エコーを認めた.経食道心エコー図検査において索状物は僧帽弁前尖(A3)基部に茎を認めていた.塞栓の危険性を考慮し,切除術が施行された.切片組織の病理所見からcalcified amorphous tumor(CAT)と診断された.6カ月前に実施された心エコー図検査では本所見は認めておらず,短期間でCATが形成されたことが示唆された.今回,透析患者に定期的に施行している心エコー図検査にて,自覚症状がなく,塞栓の原因となりうる所見を発見することができたので,文献と若干の考察を加えて報告する.
結核性心膜炎に心筋障害を合併した症例を経験した.症例は72歳男性で両側下腿浮腫および労作時呼吸困難を主訴に近医を受診し,うっ血性心不全と診断され利尿薬などの加療が開始された.しかし,治療は奏功せず利尿薬抵抗性の心不全の診断で当院に紹介となった.心エコーで多量の心嚢水,著明な心膜肥厚,左室機能不全(左室駆出率35%)を認めた.約500 mLの心嚢水をドレナージしたところ心嚢腔圧は正常化したものの,平均右房圧は19 mmHgから16 mmHgと低下に乏しく,両心カテーテル検査にて右室圧はdip and plateauパターンであり,右室・左室の拡張期圧の等圧化を認め,奇脈,左室・右室の収縮期圧の乖離を認めたことから滲出性収縮性心膜炎の病態が疑われた.後日,心嚢水の培養から結核菌が検出され結核性心膜炎の診断に至った.心筋生検では結核菌は検出されないものの,軽度の炎症細胞浸潤や細胞質の空胞変性等の心筋障害所見を認めた.結核性心膜炎に対し抗結核薬およびステロイド投与による加療を開始したところ左室機能の著しい改善を認め,本症例の心筋病変は経過から結核性心筋炎を合併していた可能性が高いと考えられた.結核性心筋炎の報告は稀であり,結核性心筋炎が抗結核薬,ステロイドの投与により奏功したという報告も極めて稀であり報告する.