症例は65歳の男性で,肥大型心筋症,心房細動にて内科治療中であった.突然出現した両下肢の運動麻痺,知覚異常,疼痛,冷感を主訴に救急受診.来院時,急性の腰椎疾患を疑われ整形外科に入院.翌日,発症後18時間後に内科に紹介された.両大腿動脈以下は脈を触知せず急性動脈塞栓症を疑った.Computed tomography(CT)を施行したところ,terminal aortaのsaddle embolusであり,大腿動脈以下で造影剤が描出され,側副血行路より少量の血流があるものと思われた.さらに,病変部の詳細を知る目的でガドリニウム造影三次元MR angiography(3DMRA)を施行したところ,塞栓の範囲と末梢の血流の存在を明瞭に確認し得た.Goldentimeの6時間を越していること,虚血による組織の懐死がないこと,末梢血流が存在することより,外科的な血栓除去は見合わせ,血栓溶解療法を選択した.ウロキナーゼ使用により,3日目には血栓は完全に溶解され,大腿動脈も触知可能になった.再度,MRAをし,血栓の消失を確認した.
3DMRAは,短時間で広い範囲の撮影が可能で,しかも空間的分解能に優れており,大動脈疾患などの頭尾方向に長い病変にも有用であり,病変部の長さや形状を正確に知ることができる利点がある.今後,急性の大動脈塞栓症の確定診断をする際,血管造影やCTに代替えも可能と思われる.
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