目的:動脈硬化性疾患予防において,LDLコレステロール値以外の脂質プロファイル管理の重要性が指摘されている.今回,選択的PPARαモジュレーターであるペマフィブラートが,非空腹時脂質プロファイルに与える影響を評価した.
方法:対象は,新規にペマフィブラートを処方された,スタチン内服患者を含む高トリグリセライド血症患者73名.ペマフィブラート投与前,投与2カ月,投与6カ月における,非空腹時のLDLコレステロール(LDL-C)値,HDLコレステロール(HDL-C)値,トリグリセライド(TG)値,TG/HDL-C比,non-HDL-C値に加え,糖代謝,腎機能,肝機能に与える影響も評価した.
結果:ペマフィブラート投与後,TG値は有意に低下,HDL-C値は有意に上昇,結果的にTG/HDL-C比,non-HDL-C値の有意な減少が認められた.一方,LDL-C値は低下しなかった.また,糖代謝や腎機能およびCK値には影響が認められなかったが,ALT値,γGTP値の有意な低下が認められた.γGTP値の低下は,TG/HDL-C比の低下と相関しなかった.
考察:ペマフィブラートは,強力に,かつ安全に非空腹時の各脂質プロファイルを改善させた.また,TG低下作用とは独立して,肝機能改善効果も認められた.
背景:拡張期圧較差(DPG)は左心不全による肺高血圧(PH)において肺微小血管障害を反映し,かつ右室機能と関連すると報告される.しかし,PHを伴わない左心不全におけるDPGと右室機能障害の関連性はいまだ不明である.
目的:DPGと心臓超音波検査における右室機能の関連性を検討した.
方法・結果:2015年1月~2017年10月の期間に左心性心疾患による急性心不全で入院し,血行動態安定後に右心カテーテル検査(RHC)を施行した87例を対象とし後ろ向きに調査した.RHC直近の心臓超音波検査での三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE)と三尖弁輪収縮期最大移動速度(S’)を算出した.TAPSEおよびS’とRHC所見との関連に対し線形回帰分析を用いて検討した.TAPSEおよびS’はいずれもDPGと有意な関連を認め,独立した予測因子であった(TAPSE:β=−0.241,p=0.020,S’:β=−0.015,p=0.047).
結語:PHを伴わない左心不全におけるDPGは右室機能障害と関連する.
症例は60代女性.労作時呼吸困難を主訴に指摘した左室流出路閉塞(LVOTO)の閉塞性肥大型心筋症〔最大圧較差(peak PG) 55-83 mmHg〕に対して,2017年5月に第一中隔枝へ初回の経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)を施行した.術後に圧較差の改善を認めた(peak PG 54 mmHgから15 mmHg)ものの,その後1年経過した頃から外来で圧較差の再上昇と症状の再増悪を認めた.シベンゾリンを追加して症状と圧較差の改善(peak PG 51 mmHgから23 mmHg)を得たが,シベンゾリンに伴う低血糖が出現した.同薬を減量中に症状の再増悪とともに,ドブタミン負荷心エコー図検査で左室中部の圧較差上昇(peak PG 62 mmHg)を認めたため,左室中部閉塞(MVO)と診断した.2019年6月に第二中隔枝へ2回目のPTSMAを施行し,圧較差の改善(peak PG 4 mmHg)と症状の改善を得た.今回,我々はLVOTOへの初回PTSMA後の慢性期にMVOが出現し,2回目のPTSMAで治療しえた稀有な症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.
症例は69歳女性.持続性心房細動に対するカテーテルアブレーション施行前の経食道心臓超音波検査にて,左房内に27×20 mm大の可動性を伴う有茎性腫瘤が指摘された.同日施行された手術所見で,左房後壁から心房中隔にかけて付着する20×10 mm大の有茎性球状腫瘤を認め,肉眼的に左房粘液腫と診断した.これを切除し,併せて両側肺静脈隔離術,左心耳切除術を施行した.術後,病理組織学検査で左房内血栓と確定診断された.左房内腫瘤の診断においては血栓と粘液腫との鑑別が問題になることが少なくないが,画像検査での診断精度に限界があるため最終的に病理組織学的検査で確定診断される.手術適応は塞栓症のリスクを考慮して慎重に検討する必要がある.
日本紅斑熱に急性心筋炎を合併した希少な症例を経験したので報告する.症例は91歳女性.炎天下での農作業後より頭痛・発熱・倦怠感が出現した.2日間様子をみたが改善せず,当院に救急搬送された.熱中症の疑いで入院したが第2病日に全身に皮疹が出現し,その後心不全を発症した.急性冠症候群の疑いで冠動脈造影をしたが冠動脈に狭窄はなく,敗血症性ショックおよび急性心筋炎の疑いで集中治療室に入室となった.メロペネムを開始したが解熱せず,播種性血管内凝固症候群および多臓器不全が進行した.家人への再聴取で入院前に虫に刺されたとの情報を得,痂皮を伴った刺し口を発見した.リケッチア感染症を疑いミノサイクリンを開始した.その後血清ポリメラーゼ連鎖反応でRickettsia japonicaが分離され,日本紅斑熱と診断した.病状は改善し,第7病日に集中治療室を退室し,第17病日に転院となった.発熱患者で皮疹を認めた場合は,詳細な病歴聴取により早期に本疾患を疑うことが重要である.
症例は78歳女性.遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)の既往があり,うっ血性心不全を呈した三尖弁および僧帽弁閉鎖不全症に対して,加療目的に入院となった.繰り返す鼻出血と肺動静脈瘻を認めたが周術期合併症なく三尖弁および僧帽弁形成術を施行できた.オスラー病は全身血管奇形を特徴とするが,病態を意識した術前検査および周術期管理を行うことで安全に体外循環を使用した手術が可能であったので文献的考察を加えて報告する.
72歳女性.ST上昇型急性心筋梗塞を疑われ,入院した.心電図検査では前胸部誘導,側壁誘導でST上昇が認められ,下壁誘導では前胸部誘導の対側性変化(reciprocal change)と考えられるST低下が認められた.広範前壁梗塞が示唆される心電図所見であった.さらにaVR誘導でST低下は認められなかった.前胸部誘導でのST上昇,下壁誘導でのST低下は急性前壁梗塞の可能性が高い所見とされており,さらにaVR誘導でST低下を認めないことは,たこつぼ症候群(TTS)の可能性が低い所見とされているにもかかわらず,TTSであった症例を経験したため報告する.
症例は83歳,男性.同期不全を伴うEF 30%台の拡張型心筋症に対して両心室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)を留置していたが,退院後4カ月頃から頻回に下痢便と食思不振が出現し,外来時の血液検査で炎症反応上昇と腎機能悪化を認めたため精査加療目的で緊急入院となった.
入院時心電図は心房トリガー型心室ペーシング,心拍数89回/分であった.心エコー上,左室は拡大し,びまん性に壁運動が低下しており中等度大動脈弁逆流,重度三尖弁逆流を認めた.入院時の血液培養よりグラム陽性球菌が検出され,経食道心エコーにて三尖弁右房側の右室リードに付着する疣贅を認め,感染性心内膜炎の診断となった.感染コントロールのため入院後にCRT-D全抜去術を施行したが,その後心不全コントロールが不可能となり,開心術にて三尖弁置換術+大動脈弁置換術+外科的に両心室ペースメーカ(CRT-P)再留置術を施行した.術後に駆出率の改善,自覚症状の改善を得た.経静脈的植込み後に発症したCRTデバイス感染に対してデバイス抜去後,開心術による心筋電極を用いた心臓再同期療法は,心不全症状改善のための治療選択肢となり得ると考えられた.
症例1は90歳代男性.2021年6月X−1日にファイザー社製新型コロナワクチン(BNT162b2)接種.同6月X日に胸痛あり当院受診,下壁誘導のST上昇を伴う胸痛にて急性心筋梗塞の診断で緊急心カテーテル施行,左前下行枝末梢の閉塞を認めた.ガイドワイヤーは容易で小径バルーンの拡張のみで再灌流を得たが,病変位置,造影所見からプラーク破綻ではなく血栓塞栓症を強く疑った.最大CKは590 U/Lと心筋ダメージはわずかであった.心エコー上左房拡大や短絡所見はなく,経過中心房細動は認めなかった.
症例2は70歳代女性.2021年8月X−20日にBNT162b2接種.同8月X日に胸痛あり当院受診.前胸部誘導のST上昇あり急性心筋梗塞の診断で緊急心カテーテル施行,左前下行枝近位部の閉塞を認めた.ガイドワイヤー通過に難渋し,血管内超音波(IVUS)で明らかなプラークを認めた.薬剤溶出ステントを留置し良好な開存を得たが最大CK 7628 U/Lと大きな心筋障害を認めた.
2症例とも経過は良好であったが,2回目のワクチン接種にあたり,1例目は原因不明の血栓塞栓症のため2回目のワクチン接種は中止とし,2例目はワクチンとの関連は否定できなかったが通常発症の心筋梗塞と判断,低心機能となったことから2回目のワクチン接種実施とした.ワクチン接種が進むにつれ同様のケースが増えてくるものと思われ,何らかの判断基準が必要と考えられた.