日本では,悪性腫瘍に続き心疾患と脳血管障害が死因の第2位と第3位を占める.厚生労働省の統計によれば,わが国の冠動脈疾患の患者総数は91万人であり,毎年5万人が心筋梗塞によって死亡している.一方米国においては,冠動脈疾患が最大の死亡原因である.米国における2003年の冠動脈疾患および心筋梗塞の患者総数は,それぞれt320万人および720万人であり,その毎年の死亡数はそれぞれ48万人および17万人であるり.また,わが国の脳血管障害の患者総数は,137万4千人であり(脳梗塞61%,脳出血25%,くも膜下出血11%,その他3%),毎年12万9千人が脳血管障害により死亡している(厚生労働省の統計).一方米国における脳血管障害の患者総数は550万人(脳梗塞88%,脳出血9%,くも膜下出血3%)であり,またそれによる死亡数は毎年15万8千人である.近年,医療技術の発達により冠動脈疾患・心筋梗塞や脳血管障害発症後の治療法は格段に進歩したが,予防対策はいまだ十分とはいえない.また塩分やコレステロール摂取の制限など従来の予防法は集団を対象としたものであり,必ずしも個人個人にあてはまるものではない.超高齢化社会を迎えたわが国においては,冠動脈疾患・心筋梗塞および脳血管障害の発症に関連する遺伝子を確定し,一次・二次予防を積極的に推進することが個人や家族のみならず社会的にも重要である.本特集では,循環器疾患のゲノム研究について,その現状と将来展望を4つのテーマに分けて概説する.「炎症関連遺伝子SNPと心筋梗塞」については,基礎的な分子メカニズムを含めて理化学研究所の尾崎浩一氏に最先端の研究を紹介していただく.「冠動脈攣縮に関連する遺伝子-eNOS遺伝子多型を中心に」については,基礎・臨床の双方の観点から熊本大学の鈴木達氏に解説していただく.「高血圧のゲノム疫学」については,疫学研究の立場から国立循環器病センターの岩井直温氏に述べていただく.最後に,「心筋梗塞・脳血管障害のオーダーメイド予防システムの開発」について疾患予防の観点から山田が概説する.本特集により,循環器疾患のゲノム研究の最先端に触れていただき,興味をもっていただければ幸甚である.
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