心臓
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26 巻, 6 号
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  • 冠攣縮は冠動脈硬化を促進するか
    竹中 孝, 堀本 和志, 会澤 佳昭, 太田 貴文, 石井 純, 児玉 奈津子
    1994 年 26 巻 6 号 p. 573-579
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    冠攣縮性狭心症患者15例を対象に,平均29カ月の間隔で冠動脈造影を2回施行し,主要冠動脈を非攣縮部(NS;n=41),び漫性攣縮部(DS;n=27)および局所性攣縮部(FS;R=21)の3群に分け, 冠動脈内径の経年変化を検討した.初回造影時の内径はNS 3.34±0.91mm,DS 2.76±1.12mm,FS 2.84±1.20mmと,3群間に有意差を認めなかったが,FSでは実測25%以上の器質狭窄部が11カ所あり,NS(3カ所)とDS(3カ所)に比し有意に多かった.2回目造影時の内径は, NS3.16±0.96mm,DS 2.59±0.79mm,FS 2.55±1.14mmと,FSのみが初回に比し有意に縮小した(p<0.05).血管径縮小率はNS3.5±17.1%,DS2.9±15.3%,FS 11.0±24.3%と,3群間に有意差を認めなかったが,FSで大なる傾向を示した.FSのうち器質狭窄部では,初回造影時2.14±0.81mmから2回目1.81±0.90mmへ有意に縮小したが, 非狭窄部では初回3.66±1.04mm,2回目3.37±0.76mmと有意な変化はなかった.NSとDSの数が少ないため,器質狭窄部のみを対象とした3群間の比較はできなかったが,NSとDSでは血管径の縮小傾向を認めなかった.
    以上より,器質狭窄部における局所性冠攣縮は冠狭窄の進行を促進することが示唆されたが,び漫性攣縮と非狭窄部に生じる局所性攣縮が器質的冠狭窄の促進に関与する証拠は得られなかった.
  • 日浅 芳一
    1994 年 26 巻 6 号 p. 580-581
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 吉田 直樹, 竹内 正明, 石野 洋一, 栗山 正巳, 南立 秀和, 岡 雄一, 近藤 承一, 中島 康秀, 黒岩 昭夫
    1994 年 26 巻 6 号 p. 582-590
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    123I-MIBGは心臓の局所交感神経機能を画像化でき,201TlClによる局所心筋血流情報と比較し評価できる点で注目されている.しかし両者を比較する際,123I-MIBGの最適な撮像時間についての検討はまだ十分でない.今回,発症後約1カ月を経過した急性心筋梗塞8例の患者に, 123I-MIBGと201TlClを安静時に同時投与し,15分後に同時収集心筋SPECTを施行,さらに60分後,240分後に123I-MIBGのSPECTを施行した.SPECTおよびBull's eye color mapでの区画別スコア化による評価を行い,各時相における123I-MIBG像と15分後201TlCl像を比較した.両評価法とも,各時相における123I-MIBG像のdefect score(D.S.)は15分後201TlCl像のDS.に比し有意に大きかった.また,それらの欠損像の解離は,SPECT評価において時間経過と共に有意に増大した. 画質評価では, 123I-MIBG240分後像において,画質が不良で評価に不適当な症例が多く認められた. 123I-MIBGと201TlClの欠損像解離は123I-MIBGの撮像時間に依存しており,両者を比較する際には,画質・至便性から123I-MIBG15分後像を用いるのが適当かつ十分であるが,denervated but viable myocardium領域を過小評価する可能性は残る.
  • 中隔枝血行改善の意義
    高味 良行, 臼井 真人, 吉川 雅治, 平手 裕市, 宮田 義弥, 大宮 孝, 石原 智嘉
    1994 年 26 巻 6 号 p. 591-597
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    冠動脈疾患の心機能評価では,収縮機能のみならず,拡張機能も対象としなければならない.今回我々は,CABGの前後で左室拡張機能がいかに変化するかを,CABG施行症例25例(男25例・女5例)にドップラー心エコー法を施行し,検討した.
    左室流入波形から,左室拡張機能の指標として1)E:拡張早期ピーク速度,2)A:心房収縮ピーク速度,3)E/A,4)Earea:拡張早期の時間流速積分値,5)A area:心房収縮期の時間流速積分値,6)E/Aarea:4)と5)の比,7)1/3TVI:時間流速積分値の1/3,8)IVRT:等容性弛緩時間,9)AT:収縮早期の加速時間,10)DT:収縮早期の減速時間,11)DR:減速率,12)NPFR:normalized peak fillingrateを用いた.また,対象を術後造影で中隔枝がバイパスグラフトから灌流される群(G群)と,左冠動脈から灌流される群(N群)とに分け,心エコーのデータを比較した.
    E,E/A,E area,E/A areaは術後有意に増加し,A,A areaは術後有意に減少し,IVRTは,有意差はないものの,術後正常範囲に入り,減少する傾向にあった.術前後の変化率で比較すると,G群の方がN群より有意に改善していた.
    虚血により障害されていたhibernating myocardiumの左室拡張機能は,CABGにより改善するといえる.またCABGによる左室拡張機能の改善の本質は,心臓の中で最も血流を要し,右室・左室の機能上重要な役割を果たす心室中隔の血行の改善であると考えられた.
  • 冠動脈拡張部位の血栓形成により急性心筋梗塞を発症した3症例を中心に
    鈴木 洋, 嶽山 陽一, 濱崎 裕司, 並木 淳郎, 木庭 新治, 松原 仁志, 弘重 壽一, 村上 幹高, 片桐 敬
    1994 年 26 巻 6 号 p. 598-604
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    [目的]これまで,冠動脈拡張症(CE)には心筋梗塞が合併しやすいという報告はあるが,その責任部位と冠動脈拡張との関連等についての詳細な検討はなされていない.今回我々は,急性心筋梗塞で来院した患者におけるCEの頻度や梗塞責任部位との関連について検討するとともに,これまで経験した冠動脈拡張部位の血栓が原因で発症した3例の急性心筋梗塞について報告する.
    [対象と方法]対象は,急性心筋梗塞で当院に来院し緊急心臓カテーテル検査を施行した連続183例であり,CEの基準は,隣接する正常と考えられる冠動脈部位の径の1.5倍以上とした.
    [結果]13例(7.1%)の高頻度にCEが認められ,そのうち冠動脈拡張部の血栓により心筋梗塞を発症した例が3例(23%),冠拡張部の直前での冠閉塞が1例(8%),直後での冠閉塞が3例(23%),冠動脈拡張枝以外の冠動脈の閉塞が6例(46%)であった.
    [結論]急性心筋梗塞では特にCEの頻度が高く,冠動脈拡張部との境界部が心筋梗塞の責任部位となることが多く,また,拡張部の血栓が原因でも心筋梗塞を発症し得た.
  • 山田 忠克, 岡本 光師, 橋本 正樹, 末田 隆, 数田 俊成, 中野 由紀子, 藤来 靖士
    1994 年 26 巻 6 号 p. 605-608
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    左冠動脈起始異常,冠動脈肺動脈瘻に発作性上室性頻拍症を合併した例を経験したので報告する.
    患者は,63歳女性.昭和55年より頻拍発作出現.抗不整脈薬の内服にて継続加療中であったが,平成4年2月13日発作性上室性頻拍が約8時間持続し,その後も胸部不快感継続したため,精査目的にて入院.入院時心電図にて著変なし.頻拍発作時の心電図にてHR166/min,narrowQRSで逆行性P波の認めがたい発作性上室性頻拍を認めた.冠動脈造影にて,左冠動脈は右冠動脈洞より起始する冠動脈起始異常があり,また左前下行枝より肺動脈幹部へつながる冠動脈肺動脈瘻が認められた.電気生理学的検査にてjump up現象とともにPSVTが誘発され,房室結節リエントリー性頻拍と,診断された.抗不整脈薬による薬効評価を実施.Propafenoneの内服にて予防効果を認めた.本例は2種類の冠動脈奇形を有し,しかも発作性上室性頻拍を合併した極めてまれな例と考えられた.
  • 正田 栄, 長尾 文之助, 加藤 秀樹, 内田 淳夫, 藤岡 俊久, 山本 和英, 篠島 文隆, 後藤 信雄, 小林 明
    1994 年 26 巻 6 号 p. 609-614
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    75歳,女性,平成3年7月,前胸部不快感を訴えて来院.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.貧血,黄疸,チアノーゼ,下腿浮腫等を認めず聴診にて4LSBにLevin3/6収縮期雑音を認めた.心電図では正常洞調律,PQ間隔0.14秒であったが,極端な左軸偏位を認め,V2~V6でR波の増高と陰性T波,II,III,aVFにてQSを認めた.心内圧は異常なく,心拍出量,両室駆出率とも保たれていた.胸腹部CTにて内臓逆位みられず,心血管造影,心エコーでは左側心室は正常右室様構造,右側心室は正常左室様構造を示した.大動脈は肺動脈の左前方に位置し,左側房室弁に中等度の逆流を認めた.冠動脈造影では左側冠動脈は通常の右冠動脈様であり,右側冠動脈は通常の左冠動脈様であった.以上により本症例を合併心奇形のない修正大血管転位症,[S,L,L]CardellのB3型と診断した.本症例は合併心奇形,刺激伝導系の異常なく,房室弁閉鎖不全も軽度なことが長期生存の原因と考えられた.
  • 三角 郁夫, 鶴田 敬一郎, 坂本 知浩, 角田 隆輔, 永里 敏文, 澤田 由美子, 荒川 千恵, 田苗 英次
    1994 年 26 巻 6 号 p. 615-618
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞にて当院緊急入院となり仮性左室瘤の典型的特徴を有した真性左室瘤の一例を報告する.症例は75歳,女性.慢性期の心エコーにて後壁に最大径3cmの心室瘤を認めた.瘤の周囲の心筋は瘤との境界部で途絶しているようにみえた.また,瘤の入口部は瘤の径に比べかなり狭く,径は0.5cmであった.瘤は菲薄な壁によって構成されていた.経食道エコーでは瘤は球状を呈し,瘤との境界部で心筋は断裂しているようにみえた.心臓カテーテル検査においても,左室造影で後壁に嚢状の心室瘤を認めた.以上のように形態上,典型的な仮性心室瘤の所見を示したが,左冠動脈造影にて冠動脈の走行は瘤の形態に沿って後方へふくらんでおり,瘤の壁に心筋が存在することが示され,真性心室瘤と診断された.
  • 藤村 嘉彦, 岡田 治彦, 鈴木 一弘, 西田 一也, 古永 晃彦, 浜野 公一, 壷井 英敏, 江里 健輔
    1994 年 26 巻 6 号 p. 619-622
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    人工弁置換術後の血管内溶血は時として重篤な合併症となる.今回我々は大動脈置換術(AVR)後に高度の溶血をきたした2症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告した.
    症例1は65歳女性.意識消失発作を認め,精査の結果大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症,僧帽弁閉鎖不全症の診断で大動脈弁置換術および僧帽弁形成術を施行した.術直後より溶血を認め,貧血に対して輸血を必要とした.溶血の原因が不明のために対症療法を行うも, 腎不全より多臓器不全となり死亡した.
    症例2は55歳男性.労作時呼吸困難を主訴とし来院,大動脈弁閉鎖不全症,僧帽弁狭窄症の診断で二弁置換術を施行した.術後,血清間接ビリルビン,LDHの上昇を認め,術後心臓カテーテル検査にて大動脈弁の不完全閉鎖による逆流が原因と判明し,再弁置換術を施行し軽快した.人工弁置換術後に高度の溶血を認めた場合には,原因がはっきりしない場合においても,再手術を考慮しなければならない.
  • 遠藤 康弘, 武市 耕, 新谷 若菜, 柴田 仁太郎, 笠貫 宏
    1994 年 26 巻 6 号 p. 623-628
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,女性.平成3年12月8日動悸症状を訴え受診.発作性心房細動と診断し入院となる.入院時のQTcは0.46secで,disopyramide 300mg/dayを投与した所,QTcは12月24日0.53sec,平成4年1月6日0.55secと延長を認め,内服を開始22日後の1月9日,病棟内で意識消失した.その際記録された心電図は心室細動を示したため,直ちに電気的除細動を施行した.その直後の心電図は心拍数40/min代の徐脈性心房細動を示し,QTcは0.59secと著明に延長していた.その後1月20日よりpropafenone 450mg/dayを投与開始したが,15日後の2月3日に再び意識消失した. 心電図はtorsades de pointesであった.本症例は心臓超音波検査上,非対称性中隔肥大が認められ,左室造影では拡張期像でスペード型を示し,肥大型心筋症と診断した.抗不整脈薬にてtorsades de pointesを起こした症例は,他薬剤でもきたす可能性が高いと思われ,抗不整脈薬の投与はより注意を要すると思われる.
  • 土岡 由紀子, 唐川 眞二, 向井 順子, 永田 健二, 中川 博, 山形 東吾, 松浦 秀夫, 梶山 梧朗, 勝丸 裕司, 山村 安弘
    1994 年 26 巻 6 号 p. 629-634
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は47歳男性で,約6年前より四肢筋力低下が出現し,多発性筋炎と診断,加療されていた.今回,動悸および呼吸困難のため入院した.心電図は心房調律,心房性,心室性期外収縮,反復性発作性心房頻拍およびST・Tの低下が認められた.左室造影では全体的にhypokinesisを示し,駆出率38%であった.電気生理学的検査により非発作時,心房頻拍発作時ともに下位右房後壁を中心にfragmentationが認められ,同部位に伝導遅延を有すると考えられた.また,非発作時には下位右房側壁,発作時には中位右房後壁にdouble potentialが認められ,concealed entrainment現象も観察された.さらに心房頻拍は心房頻回刺激,早期刺激で誘発,停止可能であり,リエントリーによる頻拍と推測された.薬物治療のみでは頻拍のコントロール不良のため抗頻拍型ペースメーカーを植え込み,経過良好である.本症例は多発性筋炎による心室筋障害により拡張型心筋症様病態を,心房筋障害により心房頻拍等の不整脈を呈したと考えられた.
  • 高橋 章之, 西山 勝彦, 中嶋 俊介, 平井 二郎, 島田 順一, 和田 行雄, 大賀 興一, 岡 隆宏, 早藤 昌樹
    1994 年 26 巻 6 号 p. 635-638
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心臓原発の腫瘍は全剖検例の0.017~0.28%であり,このうちの20~30%が悪性腫瘍であると報告されており,血管肉腫はこの悪性腫瘍のうちの約30%を占めるとされている.初発症状としては心嚢液貯留や右心系の圧排によるものがほとんどであり,心不全あるいは心嚢炎として見過ごされることが多く,また病勢の進行が早いため生前に発見されることは少ない.今回我々は心タンポナーデによる意識喪失により発見され,心臓腫瘍の疑いで手術を行った1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は67歳男性で,意識喪失のため緊急入院となった.精査の結果,心タンポナーデと診断され,心嚢穿刺で血性心嚢液を600ml排出した.その後のCT,MRIで心臓腫瘍が発見され,手術を行った.腫瘍は右心房の前面と右心房の右側,肺動脈の左側の3カ所に存在していたが右心房前面の腫瘍は三尖弁を越え右室にまで浸潤していたため,肺動脈左側の腫瘍のみ摘出した.この腫瘍は術後の病理検査で血管肉腫と診断された.
    本症は非常に予後不良の疾患であり,早期発見と手術による腫瘍摘出が,予後の改善の上で重要であると考えられる.
  • 岡川 浩人, 鈴木 淳史, 西島 節子, 奥野 昌彦, 服部 政憲, 中川 雅生, 島田 司巳
    1994 年 26 巻 6 号 p. 639-644
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    家族歴を有する原発性肺高血圧症の10歳男子例を経験した.心電図検診の意義とその後の経過観察のあり方について考えるうえで重要な症例であると思われたので報告する.
    小学校1年時の心電図検診にて,V1のR波が1.5mVかつR/S>1より右室負荷を疑われ,要経過観察とされた.しかし,4年生時に全身倦怠感が出現し近医を受診したところ心雑音を指摘された.しかし精査のため当科受診するまで心電図は一度も記録されていなかった.この時の心電図では,右軸偏位,右室負荷,右房負荷,不完全右脚ブロックなどがみられ,心臓カテーテル検査において,主肺動脈収縮期圧137mmHg,肺/体血管抵抗比1.0で,肺高血圧症をきたす器質的心および肺疾患がないため原発性高血圧症と診断した.本例の母親が原発性肺高血圧症にて死亡しており,心電図検診の突然死予防の目的から考えると,原発性肺高血圧症の家族歴があり,かつ右室負荷が疑われる場合には,心臓専門医による十分な経過観察が必要と思われた.
  • 川口 克廣, 中村 聡一, 小林 憲夫, 辻 一彦, 松野 丞男, 鈴木 敏行, 鈴木 貞輔, 浅野 実樹, 竹内 寧, 春原 啓一, 中村 ...
    1994 年 26 巻 6 号 p. 645-649
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    54歳女性.背部の激痛を主訴に来院.意識清明,血圧140/60mmHg,上下肢左右差なし.胸腹部聴打診上異常なし.胸部X線写真にて縦隔陰影の拡大を認めたため胸腹部CT検査を施行したところ,上行大動脈から下行大動脈にかけてエンハンスされない解離腔を認め,早期血栓閉塞型のStanford A型大大動脈解離と診断した.大動脈造影検査でもentryは不明であった.第3病日の胸部造影CT検査で上行大動脈の解離腔の縮小を認めたため,内科的なコントロール可能と判断し集中治療室から退室した.その後血圧は安定していたが,第22病日に再度背部痛が出現し,翌日の胸部CT検査にて大動脈弓直下の下行大動脈の解離腔への造影剤の漏れと解離腔の拡大を認めた.拡大した解離腔は再度血栓閉塞していた.その後内科的治療のみで第29病日には上行大動脈の解離腔は消失し,第12週には下行大動脈の解離腔も消失した.藤岡らは血栓閉塞型大動脈解離の偽腔内血栓像の消退には17カ月を要するとしているが,本症例では第22病日に解離腔への再交通を生じ解離腔の拡大をきたしたにもかかわらず,内科的治療のみで解離腔は比較的早期に消失した.血栓閉塞型大動脈解離は一般に予後良好とされているが,再解離や血栓の再融解による瘤の拡大や破裂のために外科的治療が必要となる場合もあるため厳重な管理が必要である.
  • 亀山 正樹
    1994 年 26 巻 6 号 p. 652-660
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋細胞のCaチャネルは,T型(低閾値型)とL型(高閾値型)の二種からなり結節細胞での活動電位発生,作業筋での活動電位プラトー相の形成,細胞内へのCa2+の供給,Ca-induced Ca releaseの誘発(興奮収縮連関)などに関与している.T型チャネルは結節細胞や幼若細胞に比較的多く心筋自動能と関係が深い.L型チャネルは主サブユニット(α1)とその他のサブユニット(α2,β等)からなると考えられ,α1は他の電位依存性チャネルと似たアミノ酸配列を有している.L型チャネルの活動は種々の生体シグナルで調節されている.ほぼ確立されたcAMP-Aキナーゼ系に加え,G蛋白質の直接作用,Cキナーゼによるリン酸化,cGMPによるフォスフォジエステラーゼ活性の調節やGキナーゼによるリン酸化などが提唱されている.さらに,細胞内ATPや未同定の蛋白質もチャネルの活性に影響を及ぼしている.
  • 砂川 賢二, 杉町 勝
    1994 年 26 巻 6 号 p. 661-670
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    圧反射は負帰還の原理を用い血圧の恒常性の維持に大きく貢献していることはよく知られている.しかしながら圧制御系の動的でかつ多変数制御系であるため,従来よりの多くの研究にもかかわらずその詳細は十分に解明されていない.近年のシステム同定工学の進歩により,圧制御系のような複雑なシステムにおいても正確な解析が可能になってきた.そこで本稿では最近我々が行なっている白色雑音を用いた圧制御系の解析について,その方法論を簡単に紹介する.この方法論を用いて圧受容体のtransductionや圧反射全体の特性やその意義について検討する.このような系統的な方法を発展させると神経系と人為的な装置の直接的な情報交換が可能になる.その例として生理的な圧反射を惹起することのできる人工圧受容体について要約する.
  • 北 徹
    1994 年 26 巻 6 号 p. 671-681
    発行日: 1994/06/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    虚血性心疾患の基礎疾患は,粥状動脈硬化である.臨床的に,その危険因子として,高コレステロール血症,喫煙,耐糖能異常,肥満,ストレス,がいわれているが,細胞レベル,分子レベルでその関係が明らかにされてきているのが,高コレステロール血症である.家族性高コレステロール血症(FH)は,遺伝的にLDL受容体が欠損しており,血中LDLコレステロールが上昇し,同時に早発性粥状動脈硬化症が引き起こされる.FHの研究を通じて,高コレステロール血症と粥状動脈硬化発症の関係が,次々と明らかにされてきているといえよう.まずFHのモデル動物WHHLウサギを使用した研究から,肝臓のLDL受容体の数が,血中LDL値を制御していることがわかった.つまり,減少すると血中LDL値の上昇が引き起こされることから,今では,逆にFHヘテロ接合体のように減少した肝LDL受容体の発現誘導が試みられ,その成果が臨床応用されているのは,周知の事実である.血中に上昇したLDLは,血管壁に沈着し,酸化修飾を受けて,マクロファージ(MΦ)に認識され,MΦを泡沫化する.この集簇がfatty streakである.我々はin vivoで初めて,酸化LDLの存在を明らかにし,しかも抗酸化剤を用いてin vivoで粥状動脈硬化の進展を抑制することに成功した.また,MΦの起源細胞である単球が,流血中から血管壁への侵入の過程についても,酸化LDLと内皮細胞のinteractionにより,単球接着分子が誘導されるためであることが判明してきた.この様に高コレステロール血症と粥状動脈硬化の発症についての最新の研究をも合わせて述べてみたい.
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