症例は69歳の男性で,平成2年2月,寒冷刺激で胸部圧迫感を自覚し,6月より増悪したため入院した.安静時心電図は異常なく,発作時およびtreadmillではV4~6でST低下を,過呼吸負荷ではaVLでST上昇とII,III,aVFでST低下を認めた.運動負荷201T1心筋シンチグラムでは後側壁に一過性の集積低下を認めた.冠動脈造影では左右冠動脈は右バルサルバ洞にある共通の冠動脈口より派生しており,主幹部は極めて短く,左冠動脈は大動脈と肺動脈の間を走行した後,前下行枝と回旋枝に分岐しており,Smith type 2,Sharbaugh type 2bの右単冠動脈症と診断した.また,有意狭窄が認められなかったため,acetylcholine(Ach)によるspasmの誘発を行った.右冠動脈内にAch20μg注入後,胸部圧迫感とともにII,III,aVFでST上昇し,末梢で完全閉塞を認めた.さらに左冠動脈内にAch100μg注入後,同様に前胸部誘導でST上昇を呈し,前下行枝,回旋枝に著明なdiffuse spasmを認めた.
単冠動脈症は近年,突然死や心筋梗塞の合併が多いことで再認識され,冠動脈造影の普及に伴い報告例も散見される.しかし,本症はその特性上,単冠動脈の起始部にspasmの生じる危険性があり,spasmを誘発し証明しえた報告は極めてまれで貴重な症例と考えられたので報告する.
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