交通外傷後に心雑音に気づかれ,無症候性急性僧帽弁閉鎖不全症をきたした,7歳症例を経験したので報告する.経過中,交通外傷の翌日に軽度の心拡大を認めたが,急性期以降は改善を示しており,日常生活においても特に著変を認めていない.聴診にて心尖部に最強点を有し,心基部方向に放散する逆流性雑音と3音,4音を認め,血清逸脱酵素の上昇とともに,心電図では左側胸部成分の減弱と,左側T波の平低化を認めた.Mモード心エコー図にて,僧帽弁後尖の拡張早期異常前方運動と,収縮期多重エコーを認め,Bモードにて僧帽弁後尖の左房内逸脱と,拡張早期に,周辺組織とは異なった求心性運動を認めた.病日2カ月に逆行性左室造影を施行してSellers分類3度の逆流を認め,心臓カテーテル法検査にて肺動脈楔入圧V波の増高を認めた.病日8カ月に肺動脈楔入圧V波の正常化傾向とともに,左室拡張末期圧,左房・大動脈比の増大や,心尖部の拡張期雑音の増強を認め,慢性型への移行が示唆されたが,心胸郭比は軽度に減少傾向を示すのみで,相反するような所見を呈していた.心胸郭比は,原疾患に伴う心機能の変化をも現わすが,左房・大動脈比は左房径の形態表現であるためと思われた.その後の経過観察にて,心不全徴候を認めていないが,今後の遠隔期における重症化の可能性も考えられ,左房・大動脈比は心胸郭比とともに,重要な指標になるものと思われた.
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