アンジオテンシンII(AT II)受容体拮抗薬であるTCV-116の内服により,心不全症状の改善を認めたうっ血性心不全例を経験したので報告する.
症例は46歳の女性で,前壁の心筋梗塞症に心房細動を合併し,心不全症状を主訴に入院した.フロセミド,メチルジゴキシン,エナラプリルなどの内服治療と電気的除細動による洞調律への復帰により,症状は軽快し退院した.しかし夜間就寝中に空咳の出現を認めたため,エナラプリルを休薬したところ再び心不全症状が出現した.そこで,TCV-116を1mg/日の用量で内服開始し,4mg/日まで増量したところ,投与前後の自覚的な身体活動能力指数は,4から6METsに改善した.また,TCV-116投与前,投与1カ月,6カ月,1年後の嫌気性代謝閾値は各々14.8,15.7,16.4,15.7ml/分/kgで,最高酸素摂取量は各々20.8,23.2,23,1,23.3ml/分/kgと,いずれも投与後は投与前に比べて改善した.さらに,断層心エコー図上の左室駆出分画も,投与前,6カ月後,1年後が各々59,64,75%と改善した.
咳嗽出現のために,ACE阻害薬の服薬が困難となった心不全症例の慢性期に,AT II受容体拮抗薬を用い,副作用なく自覚的および他覚的運動耐容能とQOLの改善を認めた.AT II受容体拮抗薬はACE阻害薬同様,心不全症例に対して有用と考えられた.
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