心血管疾患の概要を,スタンフォード大学生体工学プログラムの一員として述べる.今日,冠動脈内腔と冠動脈壁の動脈硬化を描出する技術を開発中である.今後,冠動脈インターベンション後の再狭窄の問題は解決し,冠循環に酸素や栄養分を供給する新しい方法や心筋梗塞の進展を抑制する新しい方法が実現されるであろう.さらに,左室リモデリングを制御する方法,不整脈を予防する方法,経皮的に弁修復および弁置換する方法や,障害心筋を再生する方法を開発中である.
心エコー図は心血行動態を把握するための高度な方法として使い続けられるだけでなく,新しい治療法の効果を評価する主要な手段として重要になるであろう.また,心エコー図は心内腔でのさまざまな処置の理想的な誘導方法として,また,治療の手段としても使われるようになるであろう.
冠動脈疾患に対する心エコー図の明確な役割は, 局所壁運動異常の定量化,局所および心筋内灌流の測定,冠動脈狭窄や再狭窄の正確な機能的重症度評価,動脈硬化性変化の病態生理学的観点に立った詳細な画像化などである.うっ血性心不全を治療する医師は,収縮能および拡張能を正確に測定し,その結果を連続的にわかりやすく閲覧できることを望んでいる.両室ペーシング,心室形状とサイズの制御, 多剤の効果を評価するといった新しい試みでも,その治療効果を包括的に理解するためには,このような情報が必要とされている.これを容易にするためには,画像情報も非画像情報も,分析,遠隔操作および統合可能な形でデジタル化し,患者の個人記録に還元されなければならない.
すでに明らかなように,現在行われているほとんどの心臓外科手術は,完全に経皮的な修復術および置換術に取って代わられることになる.弁置換,弁修復,人工物挿入および不整脈起源の修正治療などにおいて,いくつかの革新的方法が臨床的に検討されている.さらに,部位特異的ペーシングのためのペースメーカリード挿入,血管内デバイス挿入や幹細胞を含む治療用化合物の心内膜心筋への導入により,より優れた誘導方法が求められている.
心エコー図では,これらの目的に合致した新しいアプローチが必要である.連続的監視のための小型経食道心エコー図と"subxyphoid epicardial"画像のための胸腔チューブの開発は,そのための進歩である.現在の心腔内エコー装置は,カテーテルやそのほかのデバイスを心腔内の特定の位置に留置するために役立っている.超音波イメージングの有用性と今後の重要性は,革新的な製品化,そのほかの方法と比べた低コスト性の保持および心エコー図に不慣れな医師への教育方法の改善にかかっている.
すべての画像技術がこれから直面する課題は,経費削減,携帯性,画像の三次元化,画像を障害する人工デバイスの増加であろう.我々の領域,すなわち心疾患の診断と治療と,それ以外の領域の双方で今後の革新が期待されている.超音波画像はコンピュータの技術的進歩による恩恵を間違いなく受けるであろう.光学および光通信学,ナノテクノロジーにおける進歩は,これまで想像の領域であった新たな課題と解決策をもたらすであろう.
生体工学とは,一連の科学技術の知識を利用して異なる科学分野の問題に取り組む学問である.例えば,材料科学の新しい技術は心臓内外科手術と組織再生の問題に関わっている.また,ナノテクノロジーの利用は,これまで考えも及ばなかった植み込み型センサーの製作を可能にするかもしれない.我々は,大幅に進歩したコンピュータの威力が,三次元画像技術,ロボット工学や組織内における力学的解析に,多大な影響を与えうることを理解している. 我々は,組織の石灰化や脱石灰化のような生物学上のプロセスを理解するため,最新の科学的方法の有用性に注目している.また,生命の全システムを制御している遺伝子プロセスの解読が,心血管疾患の深い理解に対して驚くべき影響力を持つことも理解している.我々は,心血管領域で発見と革新の劇的な時代にいるのである.
抄録全体を表示