症例は38歳,男性.5年前より覚醒剤を常用しており,平成14年9月14日20時30分突然胸痛が出現し,改善しないため近医を受診.心電図上II,III,aVF誘導でST上昇を認め,急性心筋梗塞の診断にて当院転送.検査所見では心筋トロポニンTO.78ng/ml,max CPK 1311 IU/l,心臓超音波検査にて下壁領域の壁運動異常を認め,急性下壁梗塞と診断.直ちに,緊急冠動脈造影が行われたが,左右冠動脈に狭窄,攣縮あるいは血栓を示唆する所見を全く認めなかった.しかし,左室造影ではseg.3,5,7にhypokinesisを認め,最終的に正常冠動脈急性下後壁梗塞と考えられた.
正常冠動脈像を呈する心筋梗塞の報告はまれではなく,1-10%の頻度で認められる.臨床背景として,発症年齢が若年であること,梗塞前狭心症を有する者が少ないこと,血栓形成の危険因子を持つ例が多いことなどがあげられている.発症機序としては以前より冠攣縮,冠塞栓,心筋内小動脈病変などが考えられており,最近ではpositive remodelingしている部分の不安定プラークが破綻し,血栓形成から自然再疎通するのではないかとも考えられている.
本症例は従来の正常冠動脈心筋梗塞の症例と特徴など類似しているが,冠動脈造影上全く異常所見を認めず,発症時覚醒剤中止後のフラッシュバックの時期にあったことより,梗塞発症の誘因として覚醒剤の関与があったものと推測された.覚醒剤との関連による心筋梗塞発症例は極めてまれであり報告した.
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