心臓
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24 巻, 8 号
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  • 洞調律,房室伝導と選択的神経支配
    古川 安之
    1992 年 24 巻 8 号 p. 899-907
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    交感,副交感神経は心臓にも分布し,心臓機能を調節している.ここでは心臓内の交感,副交感神経の分布様式の差異と心臓内の自律神経刺激が洞調律と房室伝導に与える影響について解説を試みた.洞調律と房室伝導を調節する副交感神経節が心臓外膜側に独立して存在することが示されたことから,我々は麻酔犬を用い,直接それぞれの副交感神経節前線維を電気刺激する方法を開発し,洞調律と房室伝導に対する副交感神経刺激の作用をそれぞれ独立して観察した.さらに,洞調律と房室伝導に対する副交感神経興奮の相互作用を検討し,副交感神経興奮による房室伝導時間の延長が方法のいかんに拘らず洞周期の延長によって短縮されることを示した.また,心臓内の一部の交感神経を刺激することによって洞調律あるいは房室伝導時間を選択的に直接短縮できることを示すとともに,房室結合部調律のような補充調律も一部の交感神経の興奮によって惹起できることを示した.さらに,左右からの迷走神経は心臓内副交感神経節を介しそれぞれの神経節が1:1の対応で洞調律あるいは房室伝導を調節しており,交感神経の多重支配とは異なることを示し,解説した.
  • 西川 俊郎, 田中 正人, 川井 三恵, 安藤 明子, 笠島 武, 成瀬 光栄, 成瀬 清子, 永田 まこと, 堀江 俊伸, 中沢 誠, 門 ...
    1992 年 24 巻 8 号 p. 908-913
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は種々の心疾患で分泌量が増し,特に心室における増加が注目されている.我々は小児の心筋疾患および心内膜心筋疾患の心室筋におけるANPの存在および分布について免疫組織学的に検討した.対象は病理剖検例の拡張型心筋症7例,心内膜線維弾性症14例の計21例と,非心疾患対照例25例である.各症例の心室筋のパラフィン包埋切片を抗ANP抗体を用いて免疫染色を行った結果,拡張型心筋症の5/7(71%),心内膜線維弾性症10/14(71%)にANP陽性心筋を認めた.対照例25例はすべて陰性であった.ANP陽性細胞は左室心筋に認められ心内膜側に多く分布していた.一部の症例では右室心筋にも観察された.ANP陽性例の左室容積係数(正常心との比)は5.4±1.4で,陰性例の4.1±0.9に比べて有意に大きかった.陽性心筋細胞の横径は陰性細胞に比べると大きいことが示された.心室筋におけるANPの発現は,高度の心室拡張および心筋細胞に対する負荷の増大に関連があることが推測された.
  • 免疫組織学的アプローチ
    藤原 久義
    1992 年 24 巻 8 号 p. 914-916
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 15歳以上の弁置換症例における25年間の変遷
    山本 和男, 林 純一, 宮村 治男, 江口 昭治, 石原 法子
    1992 年 24 巻 8 号 p. 917-924
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    1965年から89年までの25年間に教室で施行した15歳以上の初回弁置換術564例を対象とし,その病因を調査し,5年ごとの変化を検討した.大動脈弁狭窄症(AS,47例)ではリウマチ性が減少し,二尖弁を含めた石灰化大動脈弁が増加した.1965-74年ではすべてリウマチ性であったが,85-89年ではリウマチ性は約1/3を占めるのみとなった.石灰化大動脈弁症例はリウマチ性に比し,有意に高齢であった.大動脈弁閉鎖不全症(AR,138例)でもリウマチ性は減少し,感染性心内膜炎(IE),変性(弁尖逸脱)によるものが増加した.65-69年と85-89年を比較するとリウマチ性は37%から11%に減少し,変性は16%から22%に,IEは11%から28%にそれぞれ増加した.僧帽弁狭窄症(MS,178例)はほとんどリウマチ性であったが,症例数は交連切開術,PTMCを含めて減少傾向であり,新たなリウマチ性弁膜症が減少していることをうかがわせた.僧帽弁閉鎖不全症(MR,109例)は最も多彩な病因を呈していた.リウマチ性は65-69年の68%から85-89年では12%に減少した.代わって変性(僧帽弁逸脱),腱索断裂,虚血性乳頭筋不全症候群,IEによるものが増加した.65-69年から85-89年では変性(僧帽弁逸脱)は20%から32%に,腱索断裂は4%から28%にそれぞれ増加した.二弁(大動脈弁+僧帽弁)置換対象例の病因はリウマチ性が約92%,IEが約7%であった.心臓弁膜症全体としてリウマチ性が減少し,ASでは石灰化による狭窄が増加,ARおよびMRの病因は多彩となり,特に変性とIEによるものが増加していると結論された.
  • 岡田 了三, 河野 浩章
    1992 年 24 巻 8 号 p. 925-926
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 宝田 正志, 康井 制洋, 宮沢 要一朗, 岩堀 晃, 長田 信洋, 大川 恭矩, 伊藤 健二
    1992 年 24 巻 8 号 p. 927-932
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    第5大動脈弓遺残の症例は,1969年Van Praaghによってはじめて報告されて以来,これまで剖検例,臨床例を含め諸外国で9例,本邦で7例の報告例がみられるにすぎない.今回我々はFallot四徴に合併した本症の1例を経験したので,これまで報告された文献的考察を加え報告する.
    症例は1歳1カ月男児でチアノーゼ,無酸素発作にて来院した.心エコー,心臓カテーテル,アンギオ検査を含む各種心臓病学的諸検査により本症と診断した.MRI検査も今回はじめて施行し,本症に対する有力な診断法の1つになると考えられた.
    さらに本症例は,鎖肛,半椎体,右腎欠損などVATER association合併例と考えられた.
  • 早藤 昌樹, 辻村 吉紀, 古川 泰司, 田中 秀央, 羽渕 義純, 酒本 將稔, 田仲 信行, 加藤 美保子, 高梨 忠寛, 加嶋 敬
    1992 年 24 巻 8 号 p. 933-936
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    Valsalva洞動脈瘤破裂に単一冠動脈を合併した1例を経験した.現在まで我々の検索し得た限りでは本症例を含め3例を数えるにすぎない.
    症例は51歳,女性.昭和61年6月頃から労作時呼吸困難を自覚し初めて心雑音を指摘された.心雑音は連続性でありValsalva洞動脈瘤破裂が疑われた.大動脈造影にて右冠動脈洞から右室への異常血流がみられ,Valsalva洞動脈瘤破裂と診断された.また同時に行った冠動脈造影により,単一冠動脈(Smith L1型)が示された.
  • 伊藤 忠彦, 山下 淳, 鈴木 雪子, 石田 明, 後藤 敦子, 原田 健二, 高田 五郎, 阿部 忠昭, 島田 堅
    1992 年 24 巻 8 号 p. 937-943
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    先天性左冠動脈口閉鎖は極めてまれな疾患であるが,著者らは生後4カ月に重症の心筋梗塞で発症した1例を経験した.大動脈造影で左冠動脈口部にblind dimpleを認め,左冠動脈は右冠動脈円錐枝の側副血行路を介し,逆行性に造影されdimpleの直前で盲端に終わっており,本症と診断した.経過中,頻発する致死性不整脈と心筋梗塞の再発をきたし,緊急手術として大伏在静脈を用いたA-Cバイパス術を施行したが左心不全のため死亡した.
    乳児例は本例を含め6例(手術例4例)の報告があるが,全例死亡し予後は極めて不良である.乳児例は内科的治療のみでは側副血行の発育は期待できず,心虚血症状が進行性であるので早期診断,早期外科治療が必要と思われた.また診断上問題となる左冠動脈肺動脈起始症との鑑別点として,大動脈造影でdimpleを認めることが有用と思われた.乳児例の臨床像,治療上の問題点を中心に考察し報告した.
  • 杉田 隆彰, 横田 祥夫, 安藤 史隆, 岡本 文雄, 池田 義, 大谷 成裕, 中西 浩之, 小田 勝志, 藤岡 重和, 鷹津 良樹, 周 ...
    1992 年 24 巻 8 号 p. 944-947
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    大動脈四尖弁はきわめてまれであるが,その形態から大動脈弁閉鎖不全を発症することが多く,最近ではその手術例も散見される.今回,著者らは急性左心不全を伴った大動脈四尖弁の閉鎖不全症に対して弁置換術を施行した1例を経験したので若干の検討と考察を加えて報告する.
  • 山田 浩之, 松原 欣也, 中村 隆志, 平田 俊幸, 大西 和彦, 東 秋弘, 杉原 洋樹, 河野 義雄, 勝目 紘, 中川 雅夫
    1992 年 24 巻 8 号 p. 948-953
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    拡張型心筋症(DCM)では心腔内血栓に由来する塞栓症により重篤な病態に陥ることが稀ではない.しかし肺塞栓症の合併は,その頻度や病態についての報告がなく本症の経過や予後に及ぼす役割は不明である.今回我々は入院加療中に右房内血栓を形成し,血栓形成前から肺塞栓症に至るまでの病態を詳細に観察したので報告する.症例は45歳,男性.呼吸困難を主訴に来院.ジゴシン,利尿薬,ワーファリンの投与により症状の改善を見たが,入院後14日目に直径3.5cmの右房内血栓が検出されたため心エコー図,血液ガス検査を連日施行した.ヘパリン投与後8日目に突然血栓は消失したが心エコー図上軽度の三尖弁逆流増大と動脈血酸素分圧の軽度の低下を認めた.特徴的所見に乏しい肺塞栓症は原疾患の増悪として見逃される可能性が高い.本例は心不全に合併した肺塞栓症の診断の手がかりを示唆する症例と考えられる.
  • 安井 清, 門間 和夫, 神田 進, 中西 敏雄
    1992 年 24 巻 8 号 p. 954-958
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    肥大型および拡張型心筋症の両者の病態を有する分類不能型心筋症と考えられる2歳5カ月の女児例を経験した.
    1歳7カ月に狭心症状にて発症した.初診時より胸部X線写真にて心拡大,肺うっ血を認め,心エコーにて心室中隔10mm,左室後壁8mmの肥厚,右房,左房,左室の拡大と左室壁運動の低下を認めた.胸痛時の心電図ではST低下,QRS軸の変化を認め,血液生化学検査では心筋逸脱酵素の軽度の上昇を認めた.タリウム心筋シンチでは左室心筋の肥厚を認めたが,灌流欠損像は認めなかった.心臓カテーテル検査では肺動脈楔入圧,左室拡張末期圧の著明な上昇,左室駆出率の低下(54%)を認めた.右室よりの心内膜生検所見では,心筋の肥大,配列の乱れ,線維化,一部に錯綜配列を認めた.胸痛症状が強いためpropranolol,利尿剤などを投与したところ,胸痛は一時的に軽減したがかえって重篤な心不全をきたした.
    本症例は肥大型心筋症としても非典型的で分類不能型心筋症と考えたが,拡張型様病態へは虚血の関与が強く疑われた.
  • 前田 圭子, 福原 武久, 稲毛 智子, 伊藤 誠, 森上 直樹, 岡田 護, 杉本 喜久, 七里 源正, 中村 保幸, 三ツ浪 健一, 木 ...
    1992 年 24 巻 8 号 p. 959-964
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例:47歳,男.主訴は胸痛.現病歴は1990年2月下旬,カゼ様症状が出現した.3月6日,心窩部痛が出現し,9日になり増悪したため近医を受診し,心電図上急性心筋梗塞が疑われたので,滋賀医科大学第1内科に紹介,入院となった.入院時心電図ではI,aVLでST上昇,II,III,aVF,V4~6でST低下を認めた. CPKは1,218 IU/l と上昇しており,白血球は11,600/mm3,好酸球は0%であった.心エコーでは心筋のび漫性肥厚と壁運動の低下を認めた.入院時の緊急心臓カテーテル検査では冠動脈は正常であり,このため同時に行った心筋生検では心内膜と心筋に著明な好酸球浸潤が認められた.その後,4月6日に末梢血にて一過性の好酸球増多がみられた.4月23日,再度心臓カテーテル検査を行ったところ,左室造影にて左室側壁に心室瘤が認められた.この2回目の心筋生検では好酸球の心内膜および心筋への浸潤は認められなかった.
    本症例は,心筋生検から好酸球性心内膜心筋炎と診断された.本症例は原因は不明であるが,心筋に急激な変化が生じて末梢血中の好酸球が心筋へ遊走し,一過性のparadoxic eosinopeniaと呼ばれる状態となり,炎症の激しかった側壁に心室瘤を残したと考えられる.
  • 長尾 月夫, 金谷 透, 蓮池 照夫, 今野 淳, 高橋 みさ子, 高橋 経寛, 佐竹 恒雄, 所澤 剛
    1992 年 24 巻 8 号 p. 965-970
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心アミロイドーシスに特徴的な心エコー所見を有し,慢性の経過で死亡した心筋炎のエコー所見と病理学的所見とを対比した.
    症例は52歳の男性で,食欲不振,胸部重苦感,るいそうが入院する3週間前から出現していた.入院時著明な心拡大(CTR:76%),完全左脚ブロックを認め,心エコー上左室駆出率は低値(21%)を示した.断層心エコー上心筋の著しい肥厚と心アミロイドーシスで認められる,いわゆるnon-homogeneous granular sparkling appearanceに類似したエコーパターンが認められた.
    その後,心室性期外収縮,心室頻拍が出現しはじめ,心不全の増悪により入院後21日目で死亡した.
    剖検所見上,肉眼的には心重量475gで特に左室壁の肥厚が著しく心筋内に白い沈着物が地図状に散在していた.病理組織学的所見としては,アミロイドーシス,ヘモクロマトーシス,多発性骨髄腫の所見はなく,全層にわたる散在性の線維化,筋線維と間質の浮腫性変化,リンパ球浸潤が認められた.病理学的に本症例の心肥大は炎症後の心筋細胞の不均一な肥大と浮腫性変化,ならびに炎症性細胞浸潤が原因と考えられた.
    以上,心エコー所見は心筋炎後の2次的な肥大と循環障害に起因した高度の線維化であると考えられた.
  • わずかなQRS波形の変化と最早期興奮部位の関係
    草野 頼子, 相沢 義房, 北沢 仁, 内山 博英, 藤田 俊夫, 池主 雅臣, 内藤 直木, 田村 真, 庭野 慎一, 柴田 昭, 新村 ...
    1992 年 24 巻 8 号 p. 971-977
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    右室流出路起源で,カテコールアミン感受性と思われる心室頻拍(VT)に対してカテーテル電気焼灼術を施行した.症例は19歳男性で明らかな基礎疾患は認められなかった.VTは非持続性で左脚ブロック型を示したが,わずかに異なるQRS波形の混在を認めた.VTはプログラム刺激では誘発されなかったがイソプロテレノール負荷および運動負荷により出現し,かつ持続した.VTはベラバミルないしプロプラノロールにより予防されたが,副作用のため薬剤内服が困難であった事よりカテーテル電気焼灼術の適応とした.電気焼灼はVTの最早期興奮部位に対して行い, 通電エネルギーは5 0 ~ 1 0 0 J とした.VTが複数のQRS波形を含んでいたことから,電気焼灼はまずそのうちの1つの波形を目標としたが,通電に伴い目標QRS波形が消失すると頻拍時のQRS波形が変化し,最早期興奮部位も移動した.波形変化に伴い3回のEAを施行したが,最早期興奮部位の範囲は1~2cmの範囲で移動したと考えられ,この領域が催不整脈性を有する領域であると考えられた.
  • 新宮 良介, 丸山 貴生, 新井 武志, 大村 素子, 川本 俊治, 吉野 孝司, 石川 勝憲, 永井 義幸
    1992 年 24 巻 8 号 p. 978-983
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    上咽頭癌に対して放射線治療後,hypersensitive carotid sinus syndrome(HCSS)による意識消失発作を繰り返す症例に対し,AAI pacemakerを挿入後,症状の改善をみた1例を経験したので報告する.
    症例は71歳男性で,1988年上咽頭癌に対して全頸部に6,000radの放射線治療施行後,軽快退院した.1989年12月,頸部捻転時に意識消失発作が頻発し入院した.失神発作時には90/50mmHgと血圧が低下し,心電図ではRR間隔1,100msecの洞停止を認めた.頸動脈洞マッサージ試験では失神発作が誘発され,3,290msecの洞停止と182/68から92/40へと90mmHgの血圧低下を認めた.洞結節機能は正常であり,硫酸アトロピン,エピネフリン前処置およびAAI pacing下での頸動脈洞マッサージ試験では,無処置時に比べ血圧低下作用の軽減を認めた.以上より,本例はHCSSのcardioinhibitory and vasodepressor mixed typeと診断した.AAI pacemakerを挿入し,失神等の症状の軽快を得た.
  • 佐藤 元彦, 加藤 淳一, 塩越 隆広, 長根 忠人, 早川 拓治, 佐藤 健誠, 斎藤 博哉, 近藤 信夫, 小野寺 壮吉
    1992 年 24 巻 8 号 p. 984-989
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    まれな下大静脈原発の平滑筋肉腫の1例を経験したので報告する.症例は48歳の女性,右季肋部痛,嘔気,嘔吐,発熱で当院に入院した.X線CT,MRICT,下大静脈造影,上大静脈造影にて下大静脈を腎静脈分岐部より右房内まで連続して閉塞する腫瘍を認めた.肝静脈は3枝とも腫瘍により閉塞しており,Budd-Chiari症候群を呈していた.右房内腫瘤の生検で異型性の強い細胞を認め下大静脈右房腫瘍と診断した.肝不全が急速に進行し,全身状態が著しく不良であったため手術を断念し肝不全に対する治療を継続したが発症より約2カ月で死亡した.剖検では下大静脈中部より発生する腫瘍が静脈内腔へ増殖し下方は腎静脈分岐部,上方は右房内まで進展し下大静脈,肝静脈を閉塞していた.組織像は出血,壊死傾向が強く,異型性の強い細胞の胞体がactin陽性であり下大静脈原発の平滑筋肉腫と診断した.下大静脈原発平滑筋肉腫の報告例の多くは,診断時には周囲に広く浸潤しており治癒切除ができず予後不良である.まれな疾患ではあるがより積極的な早期診断,また治療法の検討が望まれた.
  • 冨永 誠一, 河合 靖, 渡辺 龍彦, 高 隆誠, 高山 俊政, 西口 克彦, 中江 世明, 石原 昭, 平石 聡, 八代 公夫, 桑尾 定 ...
    1992 年 24 巻 8 号 p. 990-993
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心内奇形を合併しない急性期感染性心内膜炎の7カ月乳児の僧帽弁逆流に対し僧帽弁人工弁置換術を行い救命し得た.乳児期心内膜炎の多くは心室中隔欠損などの心内奇形に合併して発生することが多く,本例のような合併奇形を伴わない心内膜炎はまれである.心臓カテーテル検査は行わず心エコー検査などから僧帽弁逆流を伴う急性期感染性心内膜炎と診断し手術を行った.乳児期に心内膜炎による僧帽弁逆流に対する人工弁置換術はまれである.最近,僧帽弁の弁上部あるいは弁下部縫着の縫着法の優劣について実験的報告がある.それは,弁下部縫着が左室の耐圧性の点で弁上部縫着法より優れているという結論であるが,本例は弁下部縫着法にて手術を行った.弁置換術術後,心内膜炎はしだいに消退し術前に認められた心雑音も消失し,体重の増加も順調であるが,術後の左室造影検査で左室後壁上方に心室瘤様陰影を認めた.心電図検査で異常所見を認めず,心機能も良好であり,外来にて定期的に経過観察している.
  • 木庭 新治, 弘重 壽一, 井上 幸一, 林 正博, 長谷川 武志, 小沢 優樹, 片桐 敬, 上塚 芳郎, 中村 憲司, 平山 統一, 橋 ...
    1992 年 24 巻 8 号 p. 994-999
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は27歳,男性.主訴は微熱,全身倦怠感.心雑音の既往がある.平成元年6月より微熱,全身倦怠感,関節痛が出現し,9月当院受診,感染性心内膜炎(IE)が疑われ入院した.入院時,心尖部および大動脈弁口部に収縮期および拡張期雑音を聴取し,肝を1.5横指触知した.血液検査では強度の炎症反応を認めた.心エコー図では壁運動に異常はなかったが,大動脈弁(A弁)の無冠尖に疣腫,カラードップラー法でA弁・僧帽弁(M弁)逆流(AR,MR)を認めた.またMRは収縮早期の弁口部からのMRとは別に,収縮中期にM弁前尖弁腹中央部からのジェットがみられ,M弁穿孔が疑われた.血液培養でStreptococcus sanguisが検出され,IEと診断した.心臓シネMRIでもM弁穿孔部を通る血流がとらえられ,M弁穿孔を確認した.治療抵抗性で,経過とともに疣腫の増大を認め,塞栓症の危険もあり,活動期にA弁・M弁の二弁置換術を施行した.術中所見ではA弁左冠尖に巨大疣腫と直径2mmの穿孔,無冠尖に直径2,7mmの2カ所の穿孔,無冠尖穿孔部直下のM弁前尖にdrop lesionとして直径2mmの穿孔を各々認めた.また,A弁左冠尖と右冠尖は癒合し二尖弁と思われた.術後は良好に経過した.本例は,先天性大動脈二尖弁にIEを合併したと推察され, drop lesionによるM弁穿孔を心エコーおよびシネMRIで診断した.カラー・ドップラー法が穿孔血流の検出精度に優れているが,シネMRIも術前診断には有用と思われたので報告する.
  • 小林 明
    1992 年 24 巻 8 号 p. 1001-1009
    発行日: 1992/08/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    フリーラジカルの心筋細胞傷害の機序についてはまだ不明な点が多いが,細胞内Ca2+濃度の異常な増加(Ca2+過負荷)が細胞を致死的傷害へと導くと考えられている.心筋細胞膜は豊富なリン脂質と膜結合酵素蛋白が含まれ,イオンの透過性・酵素活性などの膜機能を維持している.しかも,細胞外で生成されたフリーラジカルと最も反応しやすい環境におかれている.そこで活性酸素による心筋細胞内Ca2+濃度をFura-2AMを用いて測定し,細胞形態の変化と比較した.さらに心筋細胞膜のCa2+動態に影響するCa2+ポンプ活性と膜機能に影響する膜流動性の変化についても検討した.
    過酸化水素(0.1mM,1mM)投与により細胞内Ca2+濃度は有意に増加した.しかも細胞形態の変化(短縮→拘縮)に呼応して細胞内Ca2+濃度は増加した.
    心筋細胞膜のCa2+ポンプ活性は活性酸素ラジカル投与により有意に抑制された.この抑制はラジカルスカンベンジャー投与により保護され,SH基の還元剤であるDTTとCysteine投与でもCa2+ポンプ活性の抑制は保護された.
    電子スピン共鳴スピンラベル法を用いて,膜流動性の変化とそれに対するラジカルスカンベンジャーの効果およびCa2+の影響について検討した.フリーラジカルにより赤血球膜流動性は有意に低下し,SOD+catalase投与により改善された.しかも,膜流動性の低下にはCa2+が関与していることが認められた.
    このようにフリーラジカルは心筋細胞膜に作用して心筋細胞内Ca2+動態に影響し,細胞傷害をきたすことが示唆された.
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