前胸部右側誘導で特異な形態の遷延性ST上昇(late R'に引き続いて漸次下降するST上昇-cove-shaped ST上昇)を呈した症例において,心電図形態の成因を明らかにするため,過換気負荷,運動負荷,イソプロテレノール(ISP)負荷を施行した.
症例は胸痛症候群にて治療中の64歳,女性で,心電図上,V1~V3誘導にてcove-shaped ST上昇を呈した.経過中,肺腫瘍を合併し,術前検査として心臓カテーテル検査を施行したが,冠動脈には異常所見はなかった.このST上昇は,術後に行った運動負荷で軽減し,ISP負荷心電図において,ほとんど消失した.ISP負荷の心電図所見より,この特異な心電図形態の成因として自律神経関与の早期再分極の存在が示唆された.しかしながら,V1誘導にて1ate R'は出現せず,右室内伝導障害の合併はなかった.ただV2誘導にて,late R'が見られ,ST上昇との関連において留意すべき所見と考えられた.
最近,ここに報告した心電図形態と悪性不整脈との関連が指摘されているが,病態解明の緒として心電図所見の成因を明らかにすることが必要である.その手段としてISP負荷は,早期再分極の関与やST上昇に隠蔽された伝導障害の有無を明らかにする上で有用と思われた.
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