心臓
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20 巻, 9 号
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  • 左回旋枝/右冠動脈狭窄の指標
    長谷川 浩一, 藤原 武, 沢山 俊民, 鼠尾 祥三, 中尾 正俊, 忠岡 信一郎, 中村 節, 覚前 哲, 河原 洋介, 井上 省三
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1033-1039
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    ST下降は,狭心症の診断に不可欠な心電図指標であるが,それにより冠狭窄枝を推定することは困難である.一方,陰性U波(NU)は,高度冠狭窄枝ないし心筋虚血領域と関連が深い指標とされている.さきに著者らは,「右側胸部誘導のT波減高を伴う一過性陽性U波増高(PU)」は,左回旋枝(LCX)高度狭窄ないし後下壁虚血の指標となる可能性を述べた.
    今回,狭心症発作時の12誘導心電図記録が得られ,かつ冠動脈造影で少なくとも1枝以上に75%以上の狭窄を認める狭心症84例を対象として,罹患冠動脈枝別にST下降,NUおよびPUの出現頻度を調査した.ST下降は,LCX狭窄の83%,RCA狭窄の82%,LAD狭窄の85%に出現し,NUはLAD狭窄の63%,LCX狭窄の57%,RCA狭窄の41%にみられた.一方PUは,LAD狭窄例には1例もみられなかったのに対し,LCX狭窄の83%,RCA狭窄の62%に出現した.また,PUは201Tl心筋シンチグラフィによる検討から後下壁虚血の表現であることが明らかとなった.従ってPUは,LCXあるいはRCA狭窄,後下壁虚血に特異性が高い所見と考えられた.
  • 心電図同期X線CTによる右室自由壁運動解析を用いて
    森 孝夫, 山辺 裕, 前田 和美, 福崎 恒
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1040-1045
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    右室自由壁運動異常が運動時血行動態に及ぼす影響を検討するため,冠動脈疾患患者32例で心電図同期X線CT装置により右室自由壁運動を評価した.対象を右室自由壁長短縮率(RVFWFS)が14%未満と不良で運動時肺動脈梗入圧(PAWP)が25mmHg以上の11例を1群,RVFWFS<14%かつPAWP<25mmHgの5例をII群,RVFWFS≧14%かつPAWP≧25mmHgの7例をIII群,RVFWFS≧14%かつPAWP<25mmHgの9例をIV群に分類した.運動時PAWPは1群とII群でIV群に比し同程度に高値を示した.一方,運動時右房圧は1群のみ著明な高値を,心係数は1群のみがIV群に比し有意に低値を示した.
    以上から,右室自由壁運動の低下と右室後負荷の増加の合併が運動時の右室機能を障害する重要な病態であると結論した.
  • 堀内 賢二, 水野 杏一, 松井 寛輔, 岡本 安裕, 丸山 寿晴, 高瀬 凡平, 渋谷 利雄, 荒川 宏, 宮本 明, 五十嶋 一成, 栗 ...
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1046-1053
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    PTCA施行中におけるballoon inflation(INF)直前のTNG冠動脈内投与がINFによる心筋虚血を改善するかを心電図および循環動態の変化より検討した.INFにより0.1mV以上のST上昇を示した12例を対象とした.PTCA中12誘導心電計および左室内のmicromarometer-tipped catheterにより心電図および循環動態の変化を経時的に記録した.control INFとして,少なくとも2回以上実施し,再現性を確認した.その後TNG(0.1mg)を冠動脈内に注入し,1分後co就ro1と同様にINFを実施した.INFによる虚血性心電図および循環動態変化の再現性は良好であった.TNGは,STが0.1mV上昇するまでの時間を23.4±2.9秒より30.4±4.4秒と延長させ(p<0.01),denation時のST上昇度を0.30±0.05mVより0.21±0.03mVと改善した(p<0.01).また,循環動態ではINF中のpressurerateproductを110±5×102mmHg b.pm.より98±5×102mmHgb,p.m.と抑制(p<0.01)し,虚血心筋の冠灌流圧とされるperfusion indexを7.2±3.5mmHgより13.4±42mmHgと上昇させ(p<0.05)虚血性変化を改善した.INF前におけるTNG冠動脈内投与はINFによる虚血性変化を改善し,有用と思われた.
  • タリウム心筋シンチ像による分類
    近森 大志郎, 土居 義典, 浜重 直久, 小田原 弘明, 楠目 修, 米沢 嘉啓, 小澤 利男
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1054-1060
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    拡張型心筋症(DCM)の重度症および予後評価を目的として,本症患者24名を対象とし,タリウム心筋シンチグラフィー(心筋シンチ)を行い,心エコー検査・長時間心電図・心臓カテーテル所見と対比し,さらに平均27.3±16.6カ月の経過観察を行った.
    本症患者は心筋シンチにより,欠損像なし,または単発性小欠損像(I群)・多発性小欠損像(II群)・大欠損像(III群)に分類可能であり,拡張末期径・駆出率・肺動脈模入圧・左室拡張末期圧・不整脈について比較すると,I群よりII・III群が悪く,経過中心臓死した6名はこの2群に含まれていた.
    心筋組織の減少に応じて心機能が低下することは当然予想され,心筋シンチ上の変化は本症にとってより本質的な所見であり,上記3分類はDCMの重症度および予後評価に特に有用であると結論した.
  • 藤岡 達雄, 関口 守衛, 高橋 早苗, 広沢 弘七郎, 溝口 秀昭, 梶田 昭
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1062-1071
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    重症心疾患で右心不全を呈している症例の中に脾機能充進による汎血球減少をきたし,このために出血,感染など生命予後に重大な影響を受ける例がある.そこで我々は,右房平均圧(RAm)15mmHg以上の高値を呈した重症心疾患患者69例について,その臨床像を検討するとともに,このうち14例の剖検例において,その肝,脾,骨髄の病理所見を観察し,肝のうっ血性線維化の程度と脾機能充進との関係についても検討を加えた.結果,対象例69例中13例(18.8%)に脾機能充進による汎血球減少を認め,全例右心不全の経過が長く,RAmは平均19.4±3.2mmHgと高値を呈した.4例に心臓手術後高度の出血傾向ならびに術後感染を認め,1例に心臓手術前に脾摘を行った.
    14例の剖検例の検討では,脾重量と血小板数との間に負の相関(r=-0.63)を認め,汎血球減少例は全例2009以上の脾腫を認めた.また肝のうっ血性線維化の程度と脾機能充進の有無との間には明らかな相関は認めず,右心不全による脾機能充進は必ずしもうっ血性肝硬変に続発して生じるとは限らないと考えられた.
    血球減少は出血傾向,感染の引き金となり生命予後に重大な影響を及ぼすため,重症心疾患の経過観察をする上で脾機能充進の有無に十分注意を向ける必要があり,また汎血球減少例の場合心臓手術前の脾摘も考慮する必要があると考えられる.
  • 上田 真喜子, 小川 信行, 庄司 繁市, 藤本 輝夫, 齋藤 滋, 新井 英和, 大谷 勝彦, 東條 修, 久堀 周次郎, 北岡 利雄, ...
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1072-1079
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    PTCAが施行された局所動脈壁の傷害とその後の修復過程については,なお不明の点が多い.我々は右冠状動脈,左冠状動脈前下降枝,同回旋枝,同第一対角枝の4枝に対してPTCAが反復施行され,初回PTCAの7カ月後に死亡した63歳,男性の冠状動脈硬化症の1剖検例を経験したので報告する.
    PTCAが施行された4枝の当該部位には,動脈壁の傷害,修復組織の増殖とその反復像,および内腔の再狭窄等の所見が認められた.4枝の動脈壁傷害部位に増殖していた修復組織は,決して同一ではなく,中膜の傷害を有する2枝では線維・細胞組織の広範な増殖が見られたのに対し,内膜のみの傷害を示す2枝中1枝では,既存粥腫巣の亀裂や圧縮に伴う出血およびフィブリンの沈着とその器質化組織の増殖が見出され,他の1枝では,粥腫巣の出血後の器質化過程および離開した硬化内膜周囲の線維・細胞組織の小範囲の増殖が認められた.
    これらの点から,PTCA施行後の動脈壁の病理過程は,動脈壁の傷害程度とその広がり,動脈壁局所のPTCA施行前の性状,さらには出血や血栓形成の有無などの条件により支配される可能性が示唆された.
  • 早川 正宣, 南 正人, 有光 克次郎, 井町 恒雄, 阿久津 弘, 水野 裕雄
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1080-1083
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    胸部X線上右中肺野から下肺野にかけて見られる三日月刀に似た陰影,いわゆるscimitar signをもつ症例のほとんどは,下大静脈に還流する部分的肺静脈還流異常症の一型であるが,今回,我々はscimitar signを呈しながら異常肺静脈が左房に還流する症例を経験したので報告する.症例は29歳女性.胸部異常陰影の精査を目的として入院した.胸部X線上scimitar signを認めたが,心臓の右方偏位と右肺低形成は認めなかった.肺動脈造影で右異常肺静脈が左房に還流している事が確認された.scimitar signを呈しながら異常肺静脈が左房に還流している例は我々の調べた範囲では6例の報告しかなく,まれな症例である.この異常肺静脈の形成は,肺静脈本幹の発育が遅れ,肺静脈叢は下方に発育し,膀卵黄静脈系との吻合がかなりの時期まで残存したが,最終的に肺静脈本幹との吻合が成立し膀卵黄静脈との連絡が消失したものと考えられる.
  • 術後長期の経過観察を行った2例を中心として
    高場 利博, 賀嶋 俊隆, 饗場 正宏, 村田 升, 石井 淳一, 副島 和彦
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1084-1090
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    術後12年,7年の経過観察をし得た比較的高齢者の動脈管開存症(PDA)の2例をもとに,肺動脈圧の変動を中心にして,逆短絡を伴った肺高血圧症を合併した本症の外科治療および術後経過について報告した.2例に共通した所見として,術前100%酸素負荷試験には反応しなかったが,POB負荷試験には反応した.またCTRは82%,72%と心拡大があり,いずれも右側へ凸の側轡症が認められた.手術は体外循環を用いて直視下に経肺動脈的と経大動脈的にPDAを閉鎖した.切除肺の病理組織学的所見ではHE分類でI度とIII度の変化がみられた.III度の病変のみられた例では術後8年目でも肺動脈圧は正常化していないが,1度の変化に止まっていた例では術後1年で正常化した.POB負荷試験に反応する程度の肺高血圧症を伴った例における術後の肺動脈圧の変動は,術後早期にはいまだ不安定で高値であるが,術後1年で安定し,以後はあまり変化しない経過を示した.しかし2例とも術後のquality of lifeは著明に改善されていることから,十分な検討のもとに手術適応を決定すべきであると考えられる.
  • 五味渕 大平, 高畑 秀夫, 鈴木 彰, 鈴木 史雄, 五十嵐 庫夫, 広坂 朗, 高木 雄行, 竹沢 将俊, 城間 賢二, 竹内 靖夫, ...
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1091-1095
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋梗塞における合併症の中で左心室瘤は3.5-38.0%に発生すると言われており,早期診断による手術にて二次破裂の予防が可能となった.今回我々は65歳男性で広範前壁梗塞発症後約3週間の経過で心不全の出現をみる事なく仮性心室瘤を形成し手術により延命し得た症例を経験した.本症例における仮性心室瘤の形態は前壁側に限局しているにもかかわらず巨大心室瘤を成し,手術時心外膜,胸膜の癒着が著しいため剥離難で,左室瘤切除時の断面直径は約6cmで壁厚は2mmと菲薄著明であった.病理組織所見は心筋断裂を認め,周囲組織の著明な線維化を呈しており仮性心室瘤の診断である.本症例は手術後経過良好で現在外来通院中である.以上,広範前壁梗塞後約3週間で発生した巨大仮性心室瘤が心破裂を見ずに手術により延命し得た症例を経験したので報告した.
  • 大友 透, 曳田 信一, 高木 陽一, 早瀬 章, 岩倉 雅弘, 橋本 章, 土橋 和文, 美田 晃章, 村上 弘則, 田中 繁道, 東海林 ...
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1096-1101
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    特発性冠動脈解離が左冠動脈主幹部に限局して発生し,さらに,それにより急性心筋梗塞が発症したと考えられた男性の生前診断例を報告する.
    症例は58歳男性.昭和61年11月30日に前側壁梗塞を発症.同年12月29日,広範前壁の再梗塞にて当院に緊急入院となった.心臓カテーテル検査では心尖部に左室瘤が存在し,さらに,左冠動脈前下行枝(segment8)に血栓による99%の狭窄と,左冠動脈主幹部動脈壁の解離を認めた.左冠動脈造影施行前に行った左室造影で既に左冠動脈主幹部の解離が存在していたことから,特発性冠動脈解離とこれによる急性心筋梗塞と診断した.
    特発性冠動脈解離の多くは妊娠を契機とした女性に発症し,しかも急性心筋梗塞で突然死することが多く,剖検によって初めて確認された例が大多数を占める.そのため生前診断は極めて困難とされており,現在までわずかに15例が報告されているに過ぎない.一方,生前診断例も,冠動脈解離の存在は冠動脈造影によって確認されており,カテーテル操作が二次的に冠動脈解離を発生させた可能性は否定し得ず,左室造影時に解離を確認した例は,Mathieuらの1例をみるのみである.
    以上,冠動脈造影直前に施行した左室造影で,既に左冠動脈主幹部に限局して発生した特発性冠動脈解離を確認し得た,極めてまれな1例を経験したのでここに報告した.
  • 後中隔型WPW症候群症例への適用
    渡辺 直, 島倉 唯行, 吉戒 勝, 牧 真一, 大和 真史, 椎川 彰, 八木 葉子, 小柳 仁
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1102-1109
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    WPW症候群に対する手術治療術式として,我々は心外膜側より副伝導路を凍結することにより離断する心外膜アプローチ法を積極的に適用し,良好な成績を得ている.従来の心内膜アプローチ法と違ってこの方法によれば,(1)開心,心停止を必要とせず,左心型であっても心拍動下に手術できるためδ波消失の瞬間を心電図モニターで見ながら確実に副伝導路離断ができる.また,(2)右心型はもとより左心型であっても通常人工心肺を用いずに無輸血で手術できるため,より非侵襲的であり,合併症も少ないという利点を有している.1986年まで12例の自由壁型症例に対しこの心外膜アプローチ法を適用し,11例で副伝導路離断に成功した.(1例は心内膜アプローチを併用して離断した.)さらに今回,右後中隔型の1症例に対し心外膜アプローチを適用し,人工心肺を使用せずに手術を行い得た.
    すなわち,crux部房室弁輪脂肪織をAV nodal arteryが真の心房中隔に入りこむところまで十分に剥離し,詳細な弁輪部マッピングを実施,同定された副伝導路部位を-80°で凍結した.副伝導路は離断され,術後δ波および頻拍発作の発現をみていない.自由壁型に加え,従来の心内膜アプローチでは必ずしも成績良好といえない後中隔型に対し心外膜アプローチが成功したことの意義は大きいと思われる.この経験により,中隔型を含めてどの部位の副伝導路に対しても心外膜アプローチ法の適用を考えうることが示唆された.
  • 山本 勝広, 永田 正毅, 平盛 勝彦, 榊原 博, 植田 初江, 由谷 親夫
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1110-1115
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    臨床的に心筋炎の再燃や再発が証明された報告は少ない.我々は4年を経て2回急性心筋炎を発症したと考えられる症例を経験した.症例は54歳男.昭和55年発熱,心不全で入院.胸部X線,心電図,心エコー図,心プールスキャンで異常を呈し,血中MB-CKの上昇,炎症所見,パラインフルエンザウイルスの血中抗体価上昇がみられた.しかし,退院時には上記所見はいずれも正常化した.昭和59年再び発熱,心不全で入院.心胸郭比53%,肺うっ血を呈し,心由来の血中酵素は著明に上昇し,炎症所見も認めた.心電図で右脚ブロック,I,II,III,aVFでST上昇,心房粗動,房室ブロック,心室頻拍を呈し,心エコー図で左室壁の肥厚を認めた.血中ウイルス抗体価は有意な上昇を認めなかったが,剖検にて心筋炎と確診された.
  • 野村 周三, 三谷 和子, 橋本 裕二, 玉置 肇, 矢島 途好, 沼野 藤夫, 前沢 秀憲, 稲垣 好雄, 堀内 三吉, 中谷 林太郎
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1116-1122
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の女性.幼児期より心雑音があり,1982年某医大にて連続性心雑音を指摘された.1984年11月歯髄炎に引き続き2カ月間発熱が続いた.1985年1月本学に入院.第3肋骨胸骨左縁にLevine 5/6の連続性雑音聴取.心断層エコー図で高位心室中隔欠損を伴った右Valsalva洞動脈瘤右心室内破裂を認めた.血液培養16本中15本にグラム陰性通性嫌気性小桿菌を検出.本菌は炭酸ガス培養下で血液寒天培地によく発育したが,マッコンキー寒天培地には発育しなかった.生化学的性状はカタラーゼ,硝酸塩還元性が陽性を示し,オキシダーゼ,インドールは陰性であった.糖の発酵はブドウ糖,マンニット,キシロースは陽性,ショ糖,乳糖は陰性であった.運動性はなく,発育にはX,V因子ともに要求しなかった.これらにより本菌はActinobacillus actinomycetemcomitansと同定され,本菌による感染性心内膜炎と診断された.
    Cefmetazole6g/日,gentamicin120mg/日を静注投与し6週間で治癒した.1985年6月根治手術を施行し,手術所見にて診断を確認した.
    本例では歯髄炎により口腔内常在菌である本菌が侵入したことが示唆される.本菌による感染性心内膜炎は慢性に経過することが特徴で,国内では1980年に初めて報告され,本例は第8例目である.
  • 後藤 和夫, 泰江 弘文, 奥村 謙, 松山 公士, 久木山 清貴, 吉村 道博
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1123-1127
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    10年前に僧帽弁狭窄症にて直視下交連切開術を受けた40歳女性で,今回夜間の咳および呼吸困難の出現により入院となった.心臓カテーテル検査では肺動脈模入圧13mmHg,拡張期左房左室圧較差4mmHg,僧帽弁口面積1.83cm2と術後再狭窄の程度は強くなかったが,選択的冠状動脈造影にて右単冠状動脈症を認めた.右冠状動脈は太く発達し起始部から前下行枝と思われる枝を出し,さらに後房室間溝を通って左回旋枝領域まで太い血管を送っていた.分類上SmithのI型と考えられた.右冠状動脈症であること,前下行枝と思われる血管の発達が不良であることにより心筋虚血をきたす可能性が強いと考えられたが,運動負荷Tl-201SPECTの所見や右房ペーシング時の心電図変化はそれを支持していた.
  • 佐々木 成一郎, 谷口 巌, 荒木 威, 原 宏, 森 透, 安達 博信, 湯本 東吉, 宮田 誠, 都田 潤一郎
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1128-1132
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心不全で発症した心臓原発の悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma;MFH)の1例を経験した.心タンポナーデの解除により一時的に小康を得たが放射線療法,化学療法の効果なく呼吸困難が進行し,発症8カ月,入院6カ月で死亡した.生前の検査では,血性心嚢液の細胞診はClass IIIで,心エコー検査では左房内に広基性に突出した固定性の腫瘤が内腔を占拠し,大動脈を前方に圧排していた.剖検では,腫瘍は心基部を中心に広範にひろがり左室心外膜下に浸潤し,病理組織学的にMFHと診断された.文献的考察を加え報告する.
  • 土居 義典, 村井 孝男, 浜重 直久, 米沢 嘉啓, 小田原 弘明, 近森 大志郎, 楠目 修, 小澤 利男
    1988 年 20 巻 9 号 p. 1133-1138
    発行日: 1988/09/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性.昭和60年7月当科に入院し,心エコー図にて心室中隔の著明な肥厚(2,6cm),非対称性中隔肥大(中隔/後壁厚比=2.0)を認め,心臓カテーテル検査では88mmHgの左室流出路圧較差(バルサルバ負荷時)を認め,肥大閉塞型心筋症と診断されていた.昭和61年11月30日夜,突然の呼吸困難で目覚め,近医を受診した.胸部X線写真に異常を認めないものの,喘鳴および呼吸数40/分の努力性呼吸に対して,酸素吸入,利尿剤,aminophyl-lineなどの投与を受けた.翌々日当科に転院したが,動脈血液ガス分析にてPO271.5mmHg,PCO249,9mmHgの低酸素・高炭酸ガス血症を示すため,肺塞栓症を疑い肺血流および換気シンチを施行した.両側上葉に欠損像を認め,ventilation-perfusionmismatchを示し,肺塞栓症と診断した.拡張型心筋症での肺塞栓症の報告は比較的多いが,肥大型心筋症に肺塞栓症を合併したとする報告は少ない.本症例は通常の日常活動を行っており,肺塞栓の原因となりうる合併疾患や心不全もみられないが,病歴より発作性心房細動を生じた可能性は否定できない.肥大型心筋症の死因として重症心室性不整脈が注目されているが,本症例のように肺塞栓症を合併する症例もあることは,肥大型心筋症の予後を検討する上で留意すべき点と考えられる.
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