本邦ではいまだ報告のない大動脈原発腫瘍の1剖検例を経験したので報告する.本報告例は我々が検索しえた報告のうち,36例目の大動脈原発腫瘍に相当する.
症例は50歳男性で,高血圧,腰痛,両下肢の塞栓症状にて発症し,この塞栓除去術後,急速に進行した肝梗塞,腎梗塞,消化管出血のため死亡した.
剖検にて,肉眼的には腹部大動脈を中心に内腔に突出する,表面にフィブリン血栓が付着した長径21cmの粘液腫様腫瘍を認めた.この腫瘍は,大動脈内膜表層を大動脈起始部まで這うように発育していたが,中膜,外膜への浸潤は認めなかった.胸椎,肺,腎,脾転移および大動脈主要分枝の腫瘍塞栓を認めた.光顕的には,細胞間質に粘液様物質,あるいは線維成分が豊富に見られタその細胞間基質の中に大型で核異型性を有する紡錘形,あるいは多角形細胞の散在が見られた.これらの腫瘍細胞は,免疫組織学的にはfactorVlll陰性,factorXIIIaが陽性で,細胞間基質はウシ精巣ピアルロニダーゼで消化された.電顕的検討では,腫瘍細胞内には粗面小胞体が発達していたが,myofilamentの形成は認めなかった.病理組織学的に飾romyxosarcomaと診断した.
本例は大動脈内膜に限局し,大動脈内腔を閉塞するように,一部内膜を這うように発育し,多臓器腫瘍塞栓をきたした大動脈原発内膜肉腫である.
抄録全体を表示