心筋梗塞急性期および不安定狭心症に対する逆行性冠静脈灌流(RP)は,梗塞面積の縮小や狭心痛の軽滅をもたらすとされるが,その基礎的検討は意外に少ない.そこで本研究ではイヌ心を用い,急性心筋虚血に対するRPの効果を,局所心筋血流量,局所壁運動,不整脈の面から検討した.雑種成犬10頭を麻酔,開胸後,心膜を開き,左冠動脈前下行枝(LAD)を剥離,低抵抗金属caRnulaを挿入し,循環回路を作成した.まず5頭を用い,適性なRPの灌流圧,灌流量を検討する目的で,大心静脈に前述同様の金属cannulaを挿入し,RPを施行,2分ごとに灌流圧,灌流量を上げて,逆流血との関係を検討した.次に残りの5頭では,局所壁運動,不整脈に対するRPの効果を検討すべく,臨床的に可能なRP法として冠静脈洞より大心静脈にcatheterを挿入した.虚血時間は6分間とし,局所壁運動,不整脈の重症度を検討した.RPは逆流血を有意に増加させ,その増加はRPの灌流圧,灌流量に相関する傾向を示した.しかし,RPの灌流圧が80mmHgを越すと心表面,心筋内の出血や冠静脈の破綻が出現し,この圧が灌流圧の上限と思われた.RPにより逆流血の酵素分圧は低下し,虚血領域における灌流血からの酸素摂取が推測された.同時に,虚血領域の局所壁運動は改善し,心室性不整脈も軽減した.以上,RPは急性虚血の心筋傷害を軽減するが,その実施に際しては適性な灌流圧の維持が重要と思われた.
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