心臓
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22 巻, 3 号
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  • 清水 邦芳, 清水 賢巳, 杉原 範彦, 北 義人, 源 雅弘, 島田 敏實, 柴山 真介, 梅田 研, 竹田 亮祐, 末松 哲男, 三船 ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    冠側副血行の発達機序および機能を臨床的に考察した.対象は側副血行に血行依存性の高い完全閉塞一枝病変初回心筋梗塞35例(平均年齢55 .5歳,男30例女5例,LAD病変22例,RCA病変13例)で,梗塞前狭心症の有無および期間によりA群:梗塞前狭心症(-),B群:30日以内,C群:31日以上の3群に分け,側副血行の発達度,左室駆出分画,梗塞部の局所駆出分画,梗塞後狭心症の有無について比較検討した.その結果,(1)LAD病変,RCA病変ともに,梗塞前狭心症を認める例では認めない例に比べ側副血行の発達が良好で,梗塞部の局所駆出分画が保たれ,梗塞後狭心症も高頻度に認められた.(2)LAD病変例において梗塞前狭心症を認めた例では,その期間の長いものほど側副勲行の発達が良好であった.しかし梗塞部の局所駆出分画には差がなかった.
    以上より梗塞発症前の虚血刺激が何らかの形で側副血行の発達を促している可能性,また梗塞後の虚血心筋の保護,心機能保持に有用である可能性が推察された.
  • 上原 晋, 横田 充弘, 岩瀬 三紀, 石原 均, 児玉 泰浩, 渡辺 信, 三輪田 悟, 松波 龍幸, 宮原 隆志, 吉田 純司, 稲垣 ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 252-257
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    陳旧心筋梗塞患者70例に臥位自転車エルゴメータ運動試験および心臓カテーテル検査を施行し,安静時心係数と肺動脈楔入圧ならびに運動時非観血的指標から運動時心係数と肺動脈楔入圧の推定が可能か否かを検討した。最大運動時肺動脈楔入圧(PAWPpeak)は,安静時PAWP(PAWP rest,r=0.72),左室駆出率(LVEF,r=-0.57),安静時心係数(CI rest,r=-0.40),運動時間(ExD,r=-0.33),左室拡張末期容積(LVEDV,r=0.33),心拍数増分(ΔHR,r=-0,24)とそれぞれ有意な単相関を示した.最大運動時CI(CI peak)は,CI rest(r=0.62),ExD(r=0.56),ΔHR(r=0.52),PAWP rest(r=-0.40),LVEF(r=0.38),収縮期血圧増分(ASBP,r=0.34)とそれぞれ有意な単相関を示した.CIpeakおよびPAWP peakをそれぞれ目的変数としLVEF,LVEDV,ΔHR,ΔSBP,拡張期血圧増分(ADBP),ExD,CI rest,PAWP restの8項目を説明変数とする変数増減法による重回帰分析を行った.CI peakおよびPAWP peakの予測式は,CI peak=1.074 CI rest+0.031ΔHR+0.004 ExD+0.018 LVEF-1.56(R=0.79,p<0.001),PAWP peak=0.994 PAWP rest-0.181 LVEF+0.203ΔIDBP-O.076ΔHR+21.488(R=0.80,p<0.001)であった。以上より,運動時心係数と肺動脈楔入圧は安静時心係数と肺動脈楔入圧に運動時非観血的指標である血圧反応,心拍数反応,運動時間を加えることにより推定可能と考えられた.
  • 野上 昭彦, 安部 慎治, 飯泉 智弘, 椎貝 達夫, 青沼 和隆, 家坂 義人, 高橋 淳, 新田 順一, 全 栄和, 古川 哲史, 谷口 ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 258-264
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    原因不明の失神患者における心臓電気生理学検査(EPS)の有用性と限界を検討した.脳波・脳CT・ホルター心電図・運動負荷心電図にても異常のない原因不明の失神患者16例(男9例,女7例,平均年齢60歳)にEPSを施行した.16例中11例(69%)に以下のようなEPS上の異常が認められた.洞機能不全3例,ヒス束内ブロック2例,ヒス束下ブロック1例,洞機能不全とヒス束下ブロックの合併1例,洞結節回帰性頻拍1例,頻脈性心房細動1例,非持続型心室頻拍2例、徐脈性不整脈に対しては全例ペースメーカーを植え込み,頻拍性不整脈に対してはEPS上有効と判定された薬剤を経口投与した.平均20カ月の経過観察中,EPS異常群では失神発作は消失したが,EPS正常群では2例(40%)に失神発作の再発を認めた.原因不明の失神患者の約2/3の症例でその原因と考えられる電気生理学的異常がEPSで明らかとなり,治療の決定に有効であった.
  • 不成功例を中心として
    杉山 明, 松原 徹夫, 松尾 仁司, 岡田 邦博, 松野 由紀彦, 上野 勝己, 小田 寛, 琴尾 奏典, 杉下 総吉, 渡辺 佐知郎, ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 265-269
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    最近バルーンによるPTAVおよびPTMCが行われるようになり,その効果とともに合併症に対する検討が必要とされてきた.しかしPTAVまたはPTMC後に弁の形態を直視下に観察しえた症例は少ない.今回我々はPTAVまたはPTMC後に弁置換を施行した4例を検討した.PTAV後の弁置換は1例で,大動脈弁は石灰化二尖弁であり,弁輪に沿った裂開を認め,石灰化二尖弁に対するPTAVの有用性に限界が考えられた.また僧帽弁には後交連側の前尖に裂開を認め,これはバルーンシャフトによる損傷の可能性が示唆された.PTMC後の弁置換は3例であり,そのうち2例では交連部の裂開は得られず,組織病変が軽度でpliableである部分に裂開を生じていた.残りの薫例は左室腱索内でのバルーニングのためと思われる僧帽弁後尖の裂開が認められた.PTMC例で弁,弁下組織に硬い部分と軟らかい部分が混在する場合,バルーニングにて軟らかい部分に過大な裂開力が働くことが想像され,術前の慎重な検討が必要と思われた.
  • 柿澤 秀行, 大内 秀雄, 高田 修, 中山 信吾, 小原 敏生, 尾形 寛, 速水 俊三
    1990 年 22 巻 3 号 p. 270-274
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    僧帽弁閉鎖症に両大血管右室起始症を合併した4例を経験した.いずれも,内臓心房位正位,Dループ,僧帽弁閉鎖,両大血管右室起始(DORV)で,通常型の僧帽弁閉鎖症に相当するが,大動脈は開存しており,いわゆる左心低形成症候群とは区別された.全例肺動脈弁狭窄がなく,心房間交通孔が小さかったため,肺うっ血症状の出現は,日齢0日から日齢20日までのごく早期に認められた.このうちバルーンによる心房中隔切開術および肺動脈絞扼術が施行できた症例のみが生存でき,その後も安定した血行動態を示している.左房および肺静脈圧上昇による組織学的変化は新生児期早期から引き起こされると考えられ,肺血流量の制限と心房間交通孔の拡大は,より早期に,かつ同時期に行う必要がある.
  • 鈴木 浩, 秋場 伴晴, 芳川 正流, 大滝 晋介, 小林 代喜夫, 中里 満, 佐藤 哲雄, 鷲尾 正彦, 八巻 重雄
    1990 年 22 巻 3 号 p. 275-280
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    高度の閉塞性肺血管病変を伴った静脈洞型心房中隔欠損症の乳児例を経験し,きわめてまれな症例と思われるので報告した.
    症例はUカ月の男児で,生後5日目に心雑音と軽度のチアノーゼ,胸部X線で右胸心と心拡大を指摘された.乳児期に呼吸器感染を繰り返し,体重増加不良などの心不全症状が認められた.精査の結果,完全内臓逆位症に伴う鏡像型右胸心{I,L,I},半奇静脈結合と静脈洞型心房中隔欠損と診断された.肺動脈収縮期圧は69mmHgと高度の肺高血圧を呈した.大動脈の酸素飽和度は89%と低下しており,酸素投与で97%に上昇したが肺動脈圧は変化しなかった.開胸肺生検で肺小動脈の中膜は著しく肥厚し,内膜の細胞性増殖,線維性増殖と共に中膜の肉芽腫様血管壊死などの血管炎の所見が多く認められた.内膜病変の重症度を示すindex of pulmonary vascular disease(IPVD)は2.5と高く手術不適応と判定された.
    本症例の肺血管病変は通常の心房中隔欠損でみられる病理組織像とは異なり,肺小動脈の中膜がきわめて厚く,また主に血管炎の所見がみられたことから肺血管収縮が急激に繰り返されたものと考えられた.このことから,本症例の閉塞性肺血管病変は心房中隔欠損症のみからきたものではなく,心房中隔欠損症とは独立した原発性肺高血圧症を含む肺血管病変が合併したものと推定された.
  • 大黒 哲, 大久保 俊平, 大江 透, 永田 正毅, 中西 宣文, 吉岡 公夫, 下村 克朗, 国枝 武義, 植田 初江, 由谷 親夫
    1990 年 22 巻 3 号 p. 281-286
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    薬物抵抗性の難治性心室頻拍を主徴とした,拡張相肥大型心筋症の1例を経験した.
    症例は56歳男性.40歳時に本人,長男,長女が肥大型心筋症と診断された.52歳頃より労作時呼吸困難が出現したため,当センターを受診した.心エコー,心CT,心臓カテーテル検査,心内膜生検等より,いわゆる拡張相肥大型心筋症と診断した.53歳時より,持続性心室頻拍が出現,各種抗不整脈薬を投与するも,きわめて難治性であった.また,本症例では体表面加算平均心電図法により心室遅延電位(LP)が検出された.56歳時より持続性心室頻拍が頻回に出現するとともに心不全が増悪し,死亡するに至った.
    拡張相肥大型心筋症においても,心室頻拍が重要な予後規定因子であると考えられた.過去の報告例では,左室拡大を伴わない通常の肥大型心筋症においてはLPの検出率は低いとされている.しかし,拡張相肥大型心筋症例においては,LPが検出される症例があり,そうした場合には,薬物抵抗性の持続性心室頻拍を合併する可能性があることを示唆した点において,本症例は貴重であると考えられた.
  • 北川 泰生, 大西 一男, 前田 達生, 樫原 真紀, 佐古田 剛, 高田 輝雄, 辻本 豪, 福原 正博, 足立 和彦, 種本 基一郎, ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 287-292
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    両側冠動脈肺動脈瘻および冠動脈左室瘻を合併し,心筋梗塞を発症した1症例を経験したので報告する.症例は78歳男性で,昭和63年4月29日に突然前胸部痛が出現し,急性下壁心筋梗塞症のため入院した.冠動脈造影では有意な狭窄はなかったが,左右冠動脈近位部より肺動脈主幹部へ流入する異常血管,および左冠動脈前下行枝と左室間の異常交通を認めた.運動負荷心電図・201Tl-SPECTにて虚血性変化を認めたため,異常血管の結紮術を施行した.術後,運動負荷心電図で虚血性変化は消失した.先天性冠状動脈瘻は瘻孔の開口部位により肺動脈型と心腔型とに分類されるが,両者は発生学的に異なるとされており亨その合併例はいまだ報告されておらず,本例は極めてまれな症例と思われた.
  • 石井 緑, 熱海 裕之, 門脇 謙, 佐藤 匡也, 阿部 芳久, 熊谷 正之, 阿部 忠昭, 斉藤 直敏, 所澤 剛
    1990 年 22 巻 3 号 p. 293-297
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    原発性悪性心臓腫瘍に対する治療の原則は手術療法にある.著者らは,右室に発生し肺動脈内腔に向って浸潤性に発育した粘液肉腫に対し摘出術を施行し,7カ月間生存した症例を経験した.本邦ではこれまで本例のごとき右室原発の粘液肉腫はみられず,温熱・放射線療法併用例もない.症例は33歳男性で,呼吸困難,失神発作を主訴として入院した.安静時心電図では前胸部誘導のT波の陰性化を,トレッドミル負荷時には右室負荷所見と意識消失を伴う心室頻拍とを認めた.胸部X線では右肺野の血管陰影の減少があり,心エコー法では右室流出路の腫瘍エコー像が検出された.また心血管造影では右室流出路から右肺動脈領域にまで造影欠損像があり,腫瘍の存在部位が証明されたことから摘出術に臨んだ.術時右室流出路から肺動脈主幹部までの腫瘍形態は術前検査と一致したが,占拠部位は右肺動脈の主要分枝にまで及んでいた.そこで可能な限り腫瘍を摘出しさらに右肺動脈を分岐部より切断,人工血管と自己心膜によるパッチを用いた右室流出路形成術を行った.組織標本では粘液肉腫であった.術1カ月後には呼吸困難が出現し始めたため温熱・放射線療法を施行した.その後症状はいったん改善したが,7カ月後転移巣増大による呼吸不全で死亡した.剖検では右室流出路における腫瘍の再発による肺動脈閉塞と肺,胸膜,心のう等への転移のほか温熱・放射線療法の影響は腫瘍組織の広範な線維化としてみられた.
  • 斎藤 誠, 福木 昌治, 尾崎 就一, 村上 功, 野口 俊之, 山崎 秀雄, 近藤 純一, 都田 裕之, 小竹 寛, 真柴 裕人
    1990 年 22 巻 3 号 p. 298-303
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    今回我々は,脱水を合併した右室梗塞(RVI)の1例を経験し,輸液療法により興味深い血行動態指標の変化を観察した.症例は,65歳男性で,胸痛を主訴とし昭和63年3月2日当科入院し,脈拍32/分,血圧82/50mmHgでショック状態であった.心電図では,完全房室プロツクでII,III,aVFと右側胸部誘導(V3R-6R)でSTの上昇を認めた.胸部X線では肺うっ血の所見を認めず,断層心エコー図では右心室自由壁の運動低下を認めた.右心カテーテル検査では平均右房圧(RAPm)7mmHg,右心室圧15/-(拡張末期圧8.5)mmHg,肺動脈圧12/6(平均9)mmHg,平均肺動脈楔入圧7mmHg,心係数1.68l/min/m2でForrester分類subsetIIIであったが,右室梗塞に特徴的な所見は得られなかった.1日1,300~2,000mlの輸液療法を開始し,第2病日にはCPKは5,810U/lで,肺動脈拡張期圧(13mmHg)に比しRAPm(12mmHg)の不釣り合いな上昇がありRVIと診断した.右房圧波形ではx谷とy谷の深さがほぼ等しいslightnon-compliant型を認めた.第3病日の右房圧波形では,x谷よりy谷の深いsevere non-compliant型となり,身体所見で肝腫大を認めた.第4病日の右房圧波形ではy谷はさらに深くなり,ヘマトクリット値(Hct)は入院時の41.2%から32.9%へと低下した.本症例では,Hctの低下につれRVIの血行動態指標が顕性化したことから,RVIによる右心不全徴候が脱水により隠蔽されたと考えられた.これは,RVIの診断に留意すべき点を示唆するものと考えられた.
  • 帝王切開後僧帽弁置換術による母児救命例
    山口 康一, 東海林 哲郎, 泉山 修, 金子 正光, 堀田 大介, 増田 敦, 村上 弘則, 菊池 健次郎, 飯村 攻, 数井 暉久, 小 ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 304-309
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は26歳,経産婦.妊娠16週より発熱と咳嗽を繰り返し,妊娠24週には39.7℃ の発熱と夜間の呼吸困難,さらに家人にも聴かれる心雑音が出現したため緊急入院.入院時,頻脈,起座呼吸で,両側肺野に湿性ラ音,心尖部にVI/VIの収縮期雑音,胸部X線写真にて心拡大と肺うっ血,末梢血では貧血と白血球分画の核左方移動,赤沈亢進,血清反応で強い炎症反応を認めた.超音波断層心エコー図で僧帽弁前・後尖の逸脱と疣贅を認め,カラードップラー法で僧帽弁逆流(4度)が示された.血液培養にてstreptococcus sangius Iを検出.抗生剤投与開始と共に血行動態監視下に,ジギタリス剤,利尿剤,血管拡張剤にて心不全管理を行った.第4病日に36.2℃に解熱血行動態上もForrester II群からI群に改善した。産科的には妊娠25週で,児心音は正常,超音波エコー図にて頭部をはじめ主要臓器に特に異常を認めなかった.第4病日帝王切開にて845gの新生児を得,未熟児センターへ.その後も心不全症状は漸次増強し,帝王切開後7日目に体外循環下に開胸,僧帽弁置換術を施行した.術後経過は良好で2年11カ月後の現在母子共に健康である.内科,産科,外科の緊密な連携と,迅速かつ適切な治療が成功した妊娠中発症の細菌性心内膜炎の1例を報告した.
  • 金沢 郁夫, 榎野 新, 妹尾 彰子, 本藤 達也, 藤井 孝司, 藤井 秀昭, 丸橋 暉, 真田 修, 高橋 信, 大野 祥生, 前田 佳 ...
    1990 年 22 巻 3 号 p. 310-314
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    感染性心内膜炎(IE)の合併症である脾梗塞から脾破裂をきたした例は極めてまれである.
    症例は46歳男性.発熱等の感染症状で亜急性に発症し,心エコー検査にて僧帽弁後尖に疣贅様エコーと中等度の僧帽弁逆流を認め,IEと診断し抗生剤で加療後は経過比較的良好であった.一時,左側腹部から左背部にかけて疼痛を自覚したが間もなく消失.その3週間後に突然,心窩部の激痛と共にショック状態に陥った.同時に貧血も認めた.腹部エコー検査,腹部CT,腹腔穿刺により脾内の腫瘤と腹腔内出血を認め,脾梗塞部あるいは脾膿瘍部からの出血を疑った.緊急開腹術にて脾破裂部からの出血を確認し摘脾を行った.病理学的には,脾梗塞による脾内出血に続発した脾破裂であった.摘脾術の回復後,IEにより破壊された僧帽弁に対し,Bjork-Shiley弁による僧帽弁置換術を施行した.病理学的には,僧帽弁および腱索の古い硝子様肥厚像と後尖の破壊性炎症像からなり,IEの像と考えられた.その後の臨床経過は良好であった.
    以上の症例を報告するとともに,腹部エコー検査,腹部CTの有用性等について若干の考察を行った.
  • 金塚 完, 滝島 任, Melvin L. Marcus
    1990 年 22 巻 3 号 p. 318-328
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    冠動脈は灌流圧の低下に対し冠血管抵抗を減少して血流量を維持する。このような調節は微小血管のどの部位において為されるか,さらに心筋虚血に至るまで灌流圧が低下した場合,冠微小血管はどのような反応を示すかは知られていない.これらの検討を目的とし,(1)冠灌流圧低下時の冠細小動脈の管径変化をイヌの左室心筋にて拍動下に計測した.また,心筋虚血に陥りやすい疾患として高血圧症が知られている事より,(2)慢性高血圧症が冠微小血管の抵抗分布に及ぼす影響を,抵抗の調節部位を中心として,ネコを用いた微小血管内圧の直接測定法に依り検討した.その結果,心筋血流量の維持される範囲内で冠灌流圧を下げた時(59±2mmHg),約100μm以下の細小動脈のみに管径の拡張が認められ,これより上流の小動脈径は不変であった.さらに虚血が起こるまで,冠灌流圧を下げた場合(38±lmmHg),100μm以下の細小動脈の拡張と同時に,これより上流の小動脈に収縮が認められた.ニトログリセリンの投与は,このような小動脈の収縮を緩和せしめた.慢性高血圧においては,対照群に比し約150μm以下の細小動脈のみに,著明な血管抵抗の増加が認められた.これらの結果より以下の結論を得た.(1)冠灌流圧の低下に対し100μm以下の細小動脈の拡張により血流量は維持される.(2)著明な冠灌流圧の低下時には,これらの細小動脈の拡張と同時に,100μm以上の小動脈は最大拡張に至らずに収縮する.(3)慢性高血圧症においては,冠血流量の維持に重要な部位を含む150μm以下の細小動脈のみに著明な抵抗の増加を認め,虚壷に陥りやすい一因と考えられた.
  • 藤田 正俊
    1990 年 22 巻 3 号 p. 329-340
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    虚血刺激により十分発達した冠側副血行循環が存在していると急性冠閉塞時の虚血心筋保護に有益であることは実験的にも臨床的にもよく認識されている.側副血行循環は,急性心筋虚血に際しては側副血行路が開大することによって促進され,慢性的には反復虚血刺激による血管新生により発達させられて虚血心筋への血液供給路として役立つ.この冠側副血行循環発達を促進させる薬剤の発見は虚血性心疾患の新しい治療法の1つとなりうるものと思われる.最近,意識犬を使った実験で,我々はヘパリンが左回旋枝の2分間閉i塞を1時間ごとに繰り返すことによる左回旋枝灌流域への側副血行循環発達を促進させることを証明した.さらに,我々はこの事実を労作性狭心症の治療に応用しヘパリン運動療法を新しく開発した.ヘパリン5,000単位静注10~20分後にtreadmill運動負荷を標準Bruce法により強い狭心痛が生じるまで1日2回計20回行った.10例での最大運動時間は,治療前後で6.3±1.9分(標準偏差)から9.1±2.2分へと有為に(p<0.001)増加した.0.1mVのST低下発現時のdoubleproductも治療により19%(p<0.05)だけ増加した.さらに,ヘパリン運動療法による運動耐容能の改善が側副血行循環の発達を伴うことが冠動脈造影により直接的に証明された.この治療による冠側副血行循環予備能の増加は,運動負荷T1-201心筋シンチグラフィーで確認された.同じ運動負荷レベルでの心筋虚血の程度と広がりを示すSeverityscoreは治療前を100%とすると治療直後には80±22%(p<0.05)となり治療16±6カ月後には55±34%とさらに改善した.以上,ヘパリン運動療法は,虚血心筋への血液供給を増加させることによる虚血性心疾患の新しい治療法として有用であると結論された.このように冠側副血行循環は虚血心筋保護に対して重要な役割を担っている.今後,ヘパリン運動療法のように心筋虚血に対する生来備わった冠側副血行循環発達を促進させる治療法の開発が望まれ,血管新生の詳細な機序の解明が待たれる.
  • 堀 正二
    1990 年 22 巻 3 号 p. 341-353
    発行日: 1990/03/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞における再灌流後のno-reflow現象は,虚血の遷延化や壊死の拡大を誘発するため,その原因となる冠微小循環障害が注目されている.特に,血小板血栓や白血球塞栓が高頻度に認められることが,報告されているが,このような冠微小循環障害がいかなる病態を形成するかはいまだ十分に検討されていない.著者らは,冠微小循環障害モデルとして,冠動脈内マイクロスフェア塞栓を用い,冠血流動態や虚血状態の特異性について検討してきた.本稿では,(1)冠循環の急性反応と慢性適応,(2)アデノシンと交感神経認受容体活性,(3)微小循環障害とフリー・ラジカルについて,主として微小循環調節におけるアデノシンの役割を中心に述べる.
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