アナフィラキシーが冠動脈攣縮を引き起こすことはすでに知られている.われわれは,ニコランジルがアナフィラキシーと冠動脈攣縮を引き起こしたと考えられる症例を経験した.このような報告は海外も含めていまだないため,ここに報告する.
症例は59歳,男性.2008年9月下旬,労作時胸痛とトロポニンIの上昇のため緊急冠動脈造影施行.
しかし,ニトログリセリン冠注1分後,顔面紅潮,息苦しさ,血圧低下あり,ニトログリセリンによるアレルギー反応と考え,これを中止した.代わってニコランジルの冠注を行い,左冠動脈#6,7にステントを留置後3日間ニコランジルの持続点滴を行ったが,著変は認めなかった.10月上旬,ステント留置後の冠動脈造影施行時,ニコランジル冠注1分後,胸痛,息苦しさ,咳,顔面紅潮が出現し,収縮期血圧は58mmHgまで低下した.末梢は暖かかった.同時にV
3~6で著明なST上昇と#7のステント遠位部,および,左回旋枝#13,14の90%以上の狭窄を認めた.アナフィラキシーショックを疑いエピネフリン0.2mg静注した.その後,徐々に症状は消失し,STも基線に復帰した.再度造影したところ,冠動脈攣縮も消失していた.血中IgE濃度は著明に上昇していたが,リンパ球刺激試験は陰性であった.臨床経過からニコランジルがアナフィラキシーと冠攣縮の原因として強く疑われた.血管拡張薬がI型アレルギーを介して冠動脈攣縮をきたすことがあり得る.
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