従来, 大動脈弁狭窄症 (AS) 治療は外科的大動脈弁置換術 (AVR) がスタンダードであるとされてきたが, 手術リスクが高いと判断される症例に対し, 経カテーテル大動脈弁置換術 (TAVI) で治療する時代を迎えている. TAVI適応基準の確立を目指し, 当院のconventional AVRの早期成績を検討した. 2009年1月から2014年7月までのAVR425例中, ASに対する単独AVRおよび冠動脈バイパス術併施AVRの298例を対象とした. 術後30日死亡2例 (0.7%), 在院死亡が5例 (1.7%) であった. その他, 心不全・脳梗塞等の主要心脳血管イベント (major adverse cardiac and cerebrovascular events ; MACCE) を発症した症例および, 術後40日以上の長期入院を余儀なくされた症例を15例に認めた. 以上の20例を予後不良群 (Poor prognosis : PP群), 残り278例を予後良好群 (Good prognosis : GP群) として2群を比較した. 腎機能障害, 心不全既往, 術前NYHA Ⅲ-Ⅳ度, 左室低心機能およびHigh EuroSCOREが有意にPP群に多く存在した. 具体的なTAVI適応基準として, 術前低心機能 (EF50%以下), High EuroSCORE (10<) がひとつの目安になると考えた.
心臓再同期療法 (cardiac resynchronization therapy ; CRT) は重症心不全に対する新しい治療として施行例が増加している. しかし, 当施設においてCRT (CRT-D, CRT-P) を施行した60例中, 約3年半の観察期間において16例 (27%) が死亡し, このうち11例 (69%) が心不全であった. また, 死亡例は生存例に比し, 腎機能および甲状腺機能が有意に低下していた. 全60例中4例 (6.6%) に発症したデバイス感染は全例CRT施行前より腎機能低下を認め, 3例 (75%) はCRT施行後, カテーテル治療が施行されていた. デバイス感染例は1年以内に3例 (75%) が死亡した. 以上の結果より, CRT治療後の心臓カテーテル治療は慎重に行うべきであり, CRT治療後も心不全の予防, 特に腎機能を含めた全身管理が予後に大きく影響を及ぼすと考えられた. CRT後のデバイス感染は死亡率が高く, 感染が疑われる場合, 経食道心エコー図検査 (transesophageal echocardiography ; TEE) による早期診断, 治療が重要であると考えられる.
症例は65歳男性. 広範囲前壁心筋梗塞に伴う急性心不全を発症し救急搬送された. 緊急冠動脈造影で左前下行枝#7. に閉塞を認め, 直ちに大動脈内バルーンパンピング (Intra-aortic balloon pumping ; IABP) を挿入し, 経皮的冠動脈形成術 (Percutaneous Coronary Intervention ; PCI) を施行し心不全加療を行った. 心不全は改善し, 第7病日にIABPを離脱した. ヘパリンはPCI時に1万単位ボーラス投与し, その後IABPを離脱するまで1万単位/日を継続投与した. しかし第9病日に嘔吐, 敗血症性ショックを認め, エンドトキシン吸着療法を施行したところ, ヘパリン投与後10分で急激な回路内血栓閉塞を生じた. 直ちにヘパリンを中止し, アルガトロバンに変更し加療を行ったが, 多発性脳梗塞を合併した. 抗HIT抗体陽性であり, ヘパリン再投与により2型ヘパリン起因性血小板減少症 (Heparin-induced thrombocytopenia ; HIT) を発症し, 急激な血栓形成を呈したものと考えられた.
気管軟化症に心血管系の異常をしばしば合併することが知られているが, その手術方法や治療法の選択について確立した方法はなく, 同時に治療介入した報告は極めて少ない. 今回, われわれは気管軟化症に肺動脈拡大を伴う心室中隔欠損症を合併した症例に対して外ステント術と心内修復術を一期的に施行した症例を経験した. 肺動脈拡大をきたす先天性心疾患で気管軟化症を合併する症例では積極的に両病変を同時に治療介入する必要があると考えられたので報告する.
症例は60歳代女性. 心窩部痛を主訴に近医を受診したが, 心原性ショックを呈し, 心電図で広範なST上昇を認めたため当院に救急搬送された. 来院時血圧70/40mmHgで, 心電図にてⅡ, Ⅲ, aVF, V2-V6でST上昇を認めた. 心エコー図検査では左室基部の過収縮と心尖部の無収縮を認めた. また, 左室流出路に流速増加を認め, 収縮期圧較差は170mmHgと高値であった. 冠動脈造影で冠動脈に有意狭窄はなく, 左室造影では心尖部のバルーン状の無収縮と基部の過収縮を認め, たこつぼ心筋症と診断した. 入院後, 補液とβ遮断薬により血行動態は徐々に安定した. 時間経過とともに左室壁運動および左室流出路の圧較差は改善し, 第17病日に退院した. たこつぼ心筋症に左室流出路狭窄を合併した病態に関し文献的考察を加えて報告する.
症例は88歳の女性. 胸部不快感と嘔気が出現し改善しないため, 翌日, 近医を受診. 聴診にて収縮期雑音と心電図上前胸部誘導にてST上昇を認めたため, 急性心筋梗塞による心室中隔穿孔疑いにて当院に搬送された. 心エコーにて心室中隔の心尖部寄りに約15mmの欠損孔を認めたため, IABPを挿入し緊急冠動脈造影を施行. 冠動脈には有意狭窄は認めず, 手術はKomeda-David法にて行った. 冠動脈病変を認めず, スパズムが原因と考えられた心室中隔穿孔の1手術例を経験した. 心室中隔穿孔に対するKomeda-David法は, 高齢や急性期であっても早期手術が有効と考えられた.
心臓粘液腫は初期症状に乏しく発見後直ちに手術が行われることが多いためその成長速度は明確にされていない. 今回, 他疾患の経過観察中にCTで偶然発見され出現から手術治療までの期間がretrospectiveに推定された症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
症例 : 74歳女性. 5年前からの膵嚢胞経過観察中に腹部造影CTで偶然心臓腫瘤を指摘され当科紹介となった. 自覚症状および入院時現症に特記すべき異常はなかった.
入院時検査 : CRP 0.63mg/dL, インターロイキン8 : 12pg/mL, インターロイキン6 : 9pg/mLは軽度上昇, 血清蛋白分画はA/G比1.36と軽度低下を認めた. 胸部X線写真で異常はなく, 心電図は洞性頻脈と左室肥大を認めた. 経食道心エコー検査では卵円窩下方に茎部がある左心房内腫瘍を認めた. 僧帽弁口への流入は認めなかった.
手術 : 人工心肺下に心停止とし, 右心房経由で内部に出血部分を伴う表面平滑な腫瘍を心房中隔ごと一塊に切除した. 術後経過は順調であった.
考察 : 本症例では2004年より3~6カ月間隔でCTあるいはMRIが撮影されていたが, 2008年3月のMR胆管膵管撮影で腫瘍の一部が初めて確認された. 2009年2月の手術時標本では4.9×3.9cmの大きさに成長しており内部に出血を伴っていた. 腫瘍内出血により比較的急速な増大をした可能性が考えられた.
皮膚の過伸展や血管の脆弱性を呈するEhlers-Danlos syndrome症候群 (EDS) のうち, 特にⅢ型コラーゲン異常を示す血管型は動脈瘤破裂や消化管出血により突然死をきたす. 本症例は, 40歳代で大動脈解離を発症し, Yグラフト置換されるもEDSの確定診断には至っていなかった. 60歳代で心不全を発症し, 腹部の連続性雑音と高拍出性の心不全であったことから, 全身の動静脈シャントを精査したところ, 腹部大動脈~大腿動脈の広範な動静脈シャントを認めた. 臨床所見から血管型EDSと診断した. 血管型EDSは結合組織の脆弱性に伴い動静脈瘤を発症するが, 多発性動静脈瘻の報告はなく, 希有な症例と考えられた.
しかし, 本症例は臨床症状からEDSと診断したが, 遺伝子解析の結果, 変異を認めなかった. 原因としてモザイクであった可能性, 疾患の異質性等が考えられた.