心臓
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28 巻, 2 号
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  • 金政 健, 小菓 裕成, 小川 巌, 石田 典裕, 清水 稔, 加藤 久晴, 鎌田 勲昭, 石川 欽司, 香取 瞭
    1996 年 28 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞における急性期および慢性期の冠側副血行路(Coll)が左室瘤発生を防止しうるかを検討した.対象は急性期,慢性期に冠動脈造影,左室造影を施行した発症2 4 時間以内の初回貫壁性急性心筋梗塞65例である.急性期,慢性期いずれも梗塞責任冠動脈が非再開通であった症例を非再開通群(14例),責任冠動脈の非再開通を確認後,再開通した症例を再開通群( 5 1 例) とした. 左室瘤出現頻度は,再開通群36%,再開通群27%であった.左室瘤の大きさは再開通群で非再開通群に比べて有意に小さかった. 左室瘤出現頻度を急性期C o l l の存在でみと,非再開通群,再開通群いずれでも急性期Collは左室瘤出現頻度に無関係であった.それに反して,非再開通群で慢性期Collの有無でみると,慢性期Collの存在する場合に存在しない場合より左室瘤出現頻度が小さかった(11%vs80%)(p<0.05).したがって,慢性期までに発達する十分な冠側副血行路は左室瘤形成を防止すると考えられる.
  • 悦田 浩邦, 五十嶋 一成, 荒川 宏, 渋谷 利雄, 里村 公生, 栗田 明, 中村 治雄
    1996 年 28 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞の治療において早く再灌流させた方が良いということは世界的に認められていることである.その方法に血栓溶解療法や経皮的冠動脈拡張術などが施行されているが,その際に再灌流傷害,すなわち心筋梗塞サイズに差があるかどうか実験的に検討した.
    雑種成犬20頭,平均15.8±2.3kgを対象とし,10頭は銅コイルを左前下行枝第一対角枝直後に固定し血栓形成後1.5時聞放置,その後ウロキナーゼ3万IU/kg急速静注し,再灌流を確認後1時間経過観察した.10頭はウエッジプレッシャーカテーテルで左前下行枝第一対角枝直後で1.5時間閉塞し,再灌流させ1時間経過観察した.局所心筋血流量はカラーマイクロスフェアを用い閉塞前,閉塞中,再灌流直後および再灌流1時間後に測定した.
    心筋梗塞サイズ(梗塞領域/虚血領域)はエバンスブルーおよびtriphellyl tetrazolium chloride染色で測定した.心筋梗塞サイズはそれぞれ30.2±18.9%と24.2±11.8%で有意差を認めなかった.局所心筋血流量はそれぞれ6.8倍,5.3倍と有意な増加を示した(p<0.01).再灌流直後の局所心筋血流量の多い例と少ない例があり,心筋梗塞サイズは再灌流直後の局所心筋血流量と有意な相関を認めた(r=-0.74,p=0.0002).
    どんな方法によっても再灌流後の血流量,すなわち反応性充血を良くした方がよいと考えられる.
  • 加勢田 直人, 早崎 和也, 本田 喬, 松田 宏史, 本田 俊弘, 庄野 弘幸, 堀内 賢二, 高尾 祐治, 松山 公三郎, 西上 和宏, ...
    1996 年 28 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    AMIに対する実地医家でのt-PA製剤によるprehospital thrombolysisを検討し,以下の結果を得た.すなわち,t-PA使用群では,t-PA未使用群と比べ(1) 入院時再疎通率が有意に高率(p<0.01)であり,CPK最大値に差はないものの慢性期LVEFが高値の傾向(p<0.1)があった.(2)着院前のPVC総数と重症不整脈(Lowm 4B≧)が有意に高率(p<0.05)であったが,VFおよびDCの使用頻度に差はなかった.(3)入院中死亡率および虚血性心事故,出血性合併症の発生率に差はなかった.以上から,AMIに対するprehospital thrombolysisは,死亡率減少効果は明らかではなかったものの,より早期の再疎通が可能であり,心機能保持に好影響をもたらす可能性が示唆された.一方,着院前のVFおよびDCの使用頻度に差はないものの,PVCおよび重症不整脈の発生が高率であり,その実施に当たり注意すべき点と思われた.
  • 高野 照夫
    1996 年 28 巻 2 号 p. 105-108
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 偽腔閉塞型解離と偽腔開存型解離との比較検討
    原 陽一, 黒田 弘明, 石黒 真吾, 芦田 泰之, 井上 明彦, 森本 啓介, 本多 祐, 森 透
    1996 年 28 巻 2 号 p. 109-114
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    B型急性大動脈解離36例を対象に,偽腔閉塞型解離と偽腔開存型解離とを比較し,急性期ならびに遠隔期予後について検討した.偽腔閉塞型は17例(47.2%),偽腔開存型は19例(52.8%)であった.急性期合併症は偽腔閉塞型4例(23.5%)に対し偽腔開存型12例(63.2%),急性期手術を必要としたもの偽腔閉塞型2例に対し偽腔開存型6例と偽腔開存型が有意に多かった.急性期成績は,偽腔閉塞型が脳梗塞の1例を失ったのみで16例(94.1%)を救命できたのに対し,偽腔開存型は破裂2例,手術死亡3例の計5例を失い,救命できたのは14例(73.7%)のみであった.遠隔期における検討では,偽腔閉塞型においては生存退院16例中新たに合併症を起こしたものは3例(18.8%)で,うち2例を失ったのに対し,偽腔開存型は14例中6例(42.9%)に合併症がみられ,うち4例を失った.したがい現在生存中のものは,偽腔閉塞型13例(81.3%)に対し偽腔開存型10例(52.6%)であり,1年,5年,8年累積生存率はそれぞれ偽腔閉塞型93.8±6.1%,93.8±6.1%,52.1±23.5%に対し,偽腔開存型68.4±10.7%,48.9±14.0%,24.4±18.6%と偽腔閉塞型が有意に良好であった.以上より,偽腔閉塞型においては内科治療の継続により良好な予後が期待されるが,偽腔開存型の中には強力な内科治療を行っても破裂や重篤な合併症を起こす症例が多く,たとえ急性期を乗り切っても遠隔期に新たな合併症が起こることもあり,偽腔の状態によっては早期の外科治療が必要と考えられた.
  • とくに早期閉塞型解離について
    井上 正
    1996 年 28 巻 2 号 p. 115-116
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 小林 富男, 小林 敏宏, 田代 雅彦, 竹内 東光, 曽根 克彦, 森川 昭廣
    1996 年 28 巻 2 号 p. 117-123
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心室中隔欠損症において膜性部中隔瘤は自然閉鎖の過程で形成されると考えられている.我々は膜性部中隔瘤を形成し閉鎖過程にありながらも,肺血管閉塞性病変を合併した1学童例を経験した.
    症例は15歳の男児で,生後1カ月時に心雑音を指摘され心室中隔欠損症の診断を受けたが,無症状のため親の判断で放置されていた.15歳時に肺高血圧症の合併を疑い心臓カテーテル検査を施行した.左室造影にて膜性部中隔瘤を形成した心室中隔欠損症とjet状のわずかな短絡血流を認めた.肺動脈圧は65/40(53)mmHg,左右短絡率25%,肺体血流比1.3,肺体血管抵抗比0.41,肺血管抵抗値4.6unit・m2であった.欠損孔は小さく膜性部中隔瘤を形成し閉鎖過程にあると思われ根治術はせず,α遮断薬の投与で経過観察をした.その後も肺高血圧症の進行を認め,1年後の心臓カテーテル検査では,肺動脈圧や肺血管抵抗値は前回とほぼ同値であったが,血管拡張薬に対する反応性はなく,肺動脈造影で肺血管閉塞性病変の合併を示す所見を認めた.血管作動性プロスタノイドの測定で,血管収縮作用と血小板凝集作用を有するthromboxane A2が肺動脈内で相対的な過剰状態にあると思われた.肺血管閉塞性病変を合併した原因として,心室中隔欠損症による二次的な変化とは考えがたく,肺動脈内皮細胞機能の異常によると推測された.
  • 大田 豊隆, 奥村 伸二, 藤岡 宗宏, 水野 俊和, 熊澤 実, 向井 明彦
    1996 年 28 巻 2 号 p. 124-129
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    透析直前状態の慢性腎不全を合併した全身性エリトマトーデス(SLE)患者に対する冠動脈バイパス術を経験したので報告する.
    症例は46歳の男性で,29歳よりSLE・ループス腎炎のため内科的治療を受けていた.1990年2月に急性心筋梗塞(下壁)を発症した.2枝病変(#2:100%,#7:99%,#9:99%狭窄)で,経皮的冠動脈拡張術を#7・#9に対し施行したが,再狭窄を繰り返し,日常の軽労作でも狭心症発作が起こるため手術適応となった.#7は50%程度の狭窄で,回旋枝は小さく,#4は下壁から高位側壁まで分布し大きな灌流域を有していたので,#4へのバイパス術予定とした.入院時BUN70.2mg/dl,血清クレアチニン4.5mg/dlと上昇していたため,保存的加療により腎機能の回復を図った後手術を施行した.腎不全対策として,体外循環中の限外濾過法と術後腹膜透析を併施し,十分な容量負荷と多量の利尿薬の使用により術中術後を通じ十分な自尿が維持された.術後血清クレアチニンは最高5.Omg/dlに達したが,術後3日間で腹膜透析から離脱でき,慢性透析に移行することなく経過した.胸水・心のう水の貯留以外特に合併症を認めなかった.運動負荷心筋シンチで虚血所見は消失し,冠動脈造影でグラフトは開存していた.術後45日目軽快退院した.術後1年以上を経た現在まで狭心症発作はなく,腎機能も退院時と変わりなく良好に経過している.
  • 打田 俊司, 渡辺 直, 阿部 秀樹, 小川 雅彰, 山西 秀樹, 林 和秀, 青木 健郎, 河合 裕子, 南 勝晴, 木住野 晧, 太田 ...
    1996 年 28 巻 2 号 p. 130-134
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    抗リン脂質抗体症候群は血栓塞栓症を引き起こし多彩な病変を合併する疾患として,最近注目され始めてきている.特に末梢の静脈血栓症の報告は多くを見る.今回我々は,冠動脈に血栓塞栓症が生じ,それが原因で心原性ショックを合併したと考えられる症例を経験した.当初は急性心筋梗塞による心原性ショックとも思える所見を呈したが,しだいにその病態が所見にそぐわないことより鑑別診断がっいた珍しい症例でもある.重篤な心原性ショックから救命できたこと・原疾患がまれなことを鑑み若干の文献的考察を加え疾患を解析しその報告を行う.
  • 荒木 勉, 藤野 陽, 田口 富雄, 瀧本 弘明, 東福 要平, 清水 賢巳
    1996 年 28 巻 2 号 p. 135-141
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    好酸球増多を伴う急性心膜心筋炎を発症し,ステロイド投与が有効であった若年女性例を経験したので報告する.症例は20歳女性,主訴は胸部圧迫感.入院時軽度の好酸球増多(567/mm3)と心電図で右軸偏位・低電位差・陰性T波を,胸部X線で心拡大と両側の胸水貯留を,心エコー図で心のう水貯留と心筋のび漫性の肥厚と壁運動の低下を,右心カテーテル検査で肺毛細管楔入圧(25mmHg)・右室拡張末期圧(24mmHg)・右房圧(22mmHg)の著明な上昇と心係数(1.9l/分/m2)の著明な低下,およびdip and plateau様の右室心内圧波形を認め,急性心膜心筋炎と診断した.ドブタミンとフロセミドの投与により血行動態は改善したが,心エコー図所見は不変で,好酸球増多がさらに進行(1,215/mm3)したことより,心膜心筋炎の原因に何らかのアレルギー機序が関係しているものと推定し,ステロイド投与を開始した.投与開始後,末梢血の好酸球は速やかに消失し,約3週間の経過で心電図・胸部X線・心エコー図所見ともにほぼ正常化した.好酸球増多および心筋心膜炎の原因を特定することはできなかったが,臨床上心のう水貯留(心膜炎)を主体として心タンポナーデに近い血行動態を示し,治療上ステロイド投与が有効であった点で,好酸球増多と心疾患の関連を考察する上での貴重な症例と考え報告した.
  • 心内膜心筋生検とEPC測定の有用性
    河村 慧四郎, 林 哲也
    1996 年 28 巻 2 号 p. 142-143
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 北川 泰生, 渡辺 直也, 尾崎 正憲, 稲本 真也, 名村 宏之, 栗本 泰行, 山田 重信
    1996 年 28 巻 2 号 p. 144-149
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心房細動を伴うバセドウ氏病で,硫酸キニジンによる除細動時に2回にわたり著明な洞停止を呈した1症例を経験した.症例は労作時呼吸困難と動悸を主訴とした56歳の女性で,甲状腺機能亢進と心房細動,心拡大,下肢の浮腫を認めた.血液学的検査,甲状腺シンチよりバセドウ氏病と診断した.心臓超音波検査では,軽度の僧帽弁逆流と三尖弁逆流を認めた.入院時ジギタリス剤とβプロッカーを用いたが,頻拍性心房細動が持続し心不全の増悪を認めたため,甲状腺機能が改善していない時点で硫酸キニジンによる除細動を行った.除細動後,房室結節性調律と心室性期外収縮の二段脈および各々約7秒と約11秒の著明な洞停止を認めた.QTc間隔は0.55秒と延長を認めたが,洞停止時のキニジン血中濃度は治療域以下であった.除細動後,心不全の改善と弁逆流の軽減を認めた.甲状腺機能がほぼ正常化した時点でのキニジン投与下の電気生理学的検査では,洞不全の所見を認めなかった.本例の洞停止の発生にはキニジンによる影響も否定できないが,甲状腺機能亢進症が主に関与した可能性が考えられた.甲状腺機能亢進症に伴う心房細動の除細動では,キニジン等のIa群薬の使用およびその施行時期についで慎重に判断する必要がある.
  • 武田 京子, 植村 晃久, 近松 均, 渡邊 靖之, 嶋地 健, 可児 篤, 加藤 千雄, 松山 裕宇, 安井 直, 森本 紳一郎, 菱田 ...
    1996 年 28 巻 2 号 p. 150-156
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    成人においてはまれな心房自動頻拍の持続に伴い,拡張型心筋症類似の病態を呈した症例を報告する.症例は59歳,男性.呼吸困難感を訴え,心不全と診断され入院.胸部X線写真上心胸比の拡大と胸水を認め,心電図では洞性のものとは異なる変形したP波が約195/分の頻度でみられ,房室伝導比は2:1ないし1:1の頻拍であった.心エコー図上左室全体の壁運動の低下が認められ,駆出分画は35.6%と低下していた.電気生理学的検査では,頻拍のA波のactivation sequenceは低位右房,His束電位記録部,冠静脈洞近位部,冠静脈洞遠位部の順であった.頻拍は房室ブロックが生じてもAA間隔に変化を生じず持続し,心房刺激による停止が困難であったことから,心房自動頻拍と診断された.心筋生検により心筋細胞の配列の乱れ,線維化などの異常が確認されたが,頻拍との関係は不明であった.本症例ではこの頻拍の持続が心不全の発現に強く関与しており,フレカイニドの内服により頻拍が停止し,洞調律となるとともに,漸次,心機能も改善していき,心不全は代償された.しかしながら,一般に心房自動頻拍には薬剤抵抗性のものが多く,なかには心拍数をコントロールするために外科的手術療法やカテーテルアブレーションによる自動中枢焼灼の必要な例もある.本症例も今後の経過が注目される.
  • 笠井 俊夫, 岡野 嘉明, 中西 宜文, 吉岡 公夫, 国枝 武義, 今北 正美, 由谷 親夫, 広川 恵一
    1996 年 28 巻 2 号 p. 157-162
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は21歳男性.15歳頃より労作時の息切れ,倦怠感を自覚していた.19歳時,突然の胸部圧迫感,呼吸困難,高度倦怠感が生じ入院となった.初診時より既にチアノーゼ, バチ指, 多血症が存在し,らに単冠状動脈(Liptonらの分類のRII-A),卵円孔開存(PFO)の合併を認め,各種検査より原発性肺高血圧症(ppH)と診断した.酸素吸入と血管拡張療法により自覚症状は改善し,その後約1年間は在宅酸素療法により小康状態であったが,網膜中心静脈閉塞症,右心不全の増悪のため再入院し,2カ月後に突然死した.死後剖検より,原発性肺高血圧症(ppH)+PFOと確診された.PPHは原因不明の進行性疾患であり,予後は極めて不良である.PFOの合併は20%内外で,一般に患者の生命予後を改善すると考えられており,最近ではPPHの患者に肺移植へのつなぎとしてカテーテルによる心房中隔切開術も試みられている.本症例においてもPFOの存在が生命予後を改善した可能性はあるものの,低酸素血症に起因する重篤な合併症が生じ,患者の「生活の質」(QOL)は著しく損なわれた.今後,本邦においても心房中隔切開術の適応を考える上で,十分検討すべき問題点を提示していると考え報告した.
  • 松下 哲朗, 宿輸 昌宏, 大村 浩之, 原口 増穂, 浅井 貞宏, 波多 史朗, 山佐 稔彦, 宮原 嘉之
    1996 年 28 巻 2 号 p. 163-168
    発行日: 1996/02/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    再燃寛解型の潰瘍性大腸炎に急性肺動脈血栓塞栓症を合併し, t - P A による血栓溶解療法が有効でった1例を経験した.症例は66歳,女性.再燃寛解型の潰瘍性大腸炎で,プレドニゾロン15mg/日の維持投与中,労作時の息切れと失神を主訴に受診した.動脈血ガス分析で,PaO2,45torr,PaCO2 25torrと低酸素血症を認めた.心エコー検査では,著明な右室の拡大と左室の変形がみられた.右心カテーテル検査にて肺動脈圧は65/30(41)mmHg,DSAによる肺動脈造影(以下DS-PAG)では肺葉動脈に多発性血栓を認めたため,急性肺動脈血栓塞栓症と診断した.診断後,肺動脈から選択的にt-PA600万単位を30分かけて注入した.その後,貧血の進行や便潜血反応,肺動脈圧,心エコー所見を参考にしてt-PA600万単位を肺動脈から3日間注入し,DS-PAGを施行した.DS-PAGで,両下肺動脈に血栓の残存はあったが血流は保たれていたため,ヘパリンによる抗凝固療法を行った.1カ月後,DS-PAGでは両下肺動脈の再閉塞を認めたが,肺動脈圧は23/8(13)mmHgまで改善していた.
    結論:潰瘍性大腸炎でも重症度分類で中等度以下の症例であれば,貧血の進行や便潜血反応の増悪を確認しながら少量のt-PAによる血栓溶解療法を施行することにより,急性広汎性肺動脈血栓塞栓症でも有効な治療効果が得られると考えられた.
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