コロイド分散液やエマルションなど複雑な流体を塗工乾燥して薄膜を得るプロセスは,ものづくりの実プロセスで頻繁に用いられている。しかし,それら複雑流体の乾燥速度論は未だに不明点が多い。この総説では,筆者がこれまでに行ってきた研究を例に挙げ,何がどこまで分かってきたのかを紹介する。溶媒の蒸発は,その内部に存在する分散体にとっては圧縮として作用する。その結果,分散していた固体粒子は充填され,粒子膜が自発的に形成する。エマルションでは液滴が圧縮変形し,その後の連続相の蒸発速度に影響を及ぼす。これら蒸発が関わる速度論を複数の例を通じて議論する。

酸化チタンや酸化亜鉛粒子は紫外線防御成分として日焼け止めに用いられる。これらナノ粒子は油剤とともに分散した状態で製剤に配合される。粒子の凝集は紫外線防御能の低下と塗布した部分の不自然な「白浮き」の問題を生じるため,日焼け止めの処方作りにおいて「タブー」とされてきた。本稿では,凝集体の動的な構造変化機構の発見とともに,UV散乱剤粒子の新たな分散体組成を開発した事例について紹介する。開発した分散体の塗布膜では,その乾燥時間とともに,粒子の解凝集を伴って光学特性が劇的に変化することが見出された。この光学的転移において,UV遮蔽能と視覚的透明性は自発的に上昇する。これは塗布膜から貧溶媒が揮発・消失し,分散剤に対する溶媒親和性が回復するという変化によるものであった。さらに,開発した分散体中で元々生じている凝集構造は,塗布液が肌のキメや毛穴に流れ落ちる「キメ落ち」を抑制し,均一な塗布膜の形成に寄与した。結果として,初めからUV散乱剤粒子を良分散した分散体と比べても,より高いUV防御性能を発揮することが明らかとなった。

“映える”化粧品を支える成分として粉体があり,さらにその粉体を魅力的にする粉体表面デザインがある。本報告では最初に粉体の表面を直接変化させる表面処理方法と他物質で表面を被覆する表面処理方法を紹介する。さらに表面デザインで得られた効果について説明する。具体的には「安定性の向上」,「メーキャップ効果」,「使用感・化粧持ち向上」,「皮膚への効果」,「消臭効果」などでこれらの特長が化粧品に新しい機能と魅力を与えている。最後に「マイクロプラスチック規制」などの化粧品規制が粉体の表面デザインに与える影響についても説明する。
