7つのd,l-アミノ酸からなる環状ペプチド骨格を特徴とする枯草菌由来のバイオサーファクタント(サーファクチン)について,そのユニークな分子構造とこれに起因するサステイナブル素材としての多様な機能について概説する。さらに,サーファクチンの環境調和性と機能性を活用した応用について紹介したい。
マンノシルエリスリトールリピッド類(MELs)は,4-O-β-D-マンノピラノシル-エリスリトール構造を基本骨格とし,2本の脂肪鎖を有する両親媒性分子である。これまでに当研究室では,マンノースの脂肪鎖長が異なる計20種類のS-MEL-A-D(C6,C8,C10,C12,C14)を系統的に合成し,肌荒れ改善活性に関する構造活性相関研究を行ってきた。その結果,C10の脂肪鎖長を有するS-MEL-A-Dが,表皮に浸透し,高い肌荒れ改善活性を発現することを明らかにしている。そこで本研究では,新たな高機能性化粧品(コスメシューティカル)素材の創出を目的とし,著者らが最近開発した芳香族ボリン酸触媒を用いた立体選択的β-マンノシル化反応と従来の隣接基関与を伴うグリコシル化反応を駆使することで,4種類の新規MEL類縁体としてR-MEL-A,S-マンノシルスレイトールリピッド(MTL)-A,R-MTL-A,およびα-S-MEL-Aをデザイン,合成した。その中でR-MTL-Aが最も優れたヒト上皮がん細胞選択毒性と肌荒れ改善活性を併せ持つ新たなコスメシューティカル素材として期待されることを見出した。以上の結果を最近報告したので,本総説において紹介する。
ソホロリピッド(SL)は,優れた生産性と機能性を併せ持つ糖脂質型バイオサーファクタントとして世界的に産業利用が進められている。天然のSLは,従来から知られている酸型SL(ASL)とラクトン型SL(LSL)をはじめに,異なる構造と物性を持つ複数の誘導体の混合物として得られる。本研究で私たちは,SL誘導体の良溶媒であるメタノールを溶離液とする逆相高速液体クロマトグラフィー/質量分析を行うことで,全てのSL成分を漏らすことなく分析可能な成分分析法を確立した。本手法を利用することで,代表的なSL生産酵母であるStarmerella bombicolaの生産物中の全SL誘導体の含有量を正確に定量することに成功したことに加え,従来のASLやLSLとは異なる構造を持つこれまでに報告例のない様々な新規SL誘導体を発見した。