近年,ホスファチジン酸,ホスファチジルグリセロール,カルジオリピンといった酸性リン脂質の生体内における生理機能や疾病との関係が明らかにされつつある。本稿では,これら酸性リン脂質の生理機能に関する興味深い報告例を概説するとともに,筆者らが近年見出した酸性リン脂質に特異的に作用するホスホリパーゼについて紹介する。
グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)は,真核生物において,タンパク質の翻訳後修飾に用いられる糖脂質であり,修飾タンパク質を細胞膜に繋ぎ止める役割を持つ。酵母では60種類以上,ヒトでは150種類以上の多種多様なGPIアンカー型タンパク質が存在している。GPIは小胞体膜上でホスファチジルイノシトールから生合成され,タンパク質に修飾された後,GPIアンカー型タンパク質はゴルジ体を経て,細胞表面へ輸送される。哺乳動物細胞において,GPIアンカー型タンパク質の生合成には,20以上のステップが必要であり,これまで30以上の遺伝子が関与していることが明らかとなっている。本総説では,哺乳動物におけるGPIアンカー型タンパク質の生合成反応とそれに関わる酵素について,最近の研究結果を踏まえながら概説する。
我が国では,農業従事者の減少と高齢化により,省力化技術が求められている。また,使用済みプラスチックの地球上への蓄積が大きな問題となっており,その対策が急務となっている。本稿では,これらの社会状況を説明し,生分解性プラスチック製品に対するニーズを明らかにする。次に,耐久性のある生分解性プラスチック農業用マルチフィルムの分解を,ユーザーが意図するタイミングで促進するための生分解性プラスチック分解酵素の開発について紹介する。今後,様々な生分解性プラスチック製品と分解酵素を組み合わせることにより,プラスチックの新たな用途の開発が期待される。