分子内のアルキル鎖に二重結合を持たない飽和脂肪酸は,二重結合を持つ不飽和脂肪酸と比較して,“酸化されづらい”もしくは“酸化されない”と認識されている。しかし実際には半世紀以上前から,飽和脂肪酸であっても高温で加熱されることで酸化され,乳製品や牛肉などの動物性食品に含まれる香り成分である2-alkanoneやlactoneといった特殊な分解物が生成されることが知られていた。この現象には,特定の飽和脂肪酸ヒドロペルオキシド位置異性体が関与していると推定されていたが,当時の技術ではこれらの異性体を調製することは困難であり,結果としてメカニズムの解明には至らなかった。本総説では,我々が開発してきたヒドロペルオキシド異性体の調製技術を駆使することで解明された,飽和脂肪酸の酸化による2-alkanoneおよびlactoneの生成メカニズムについて解説する。このメカニズムへの理解は,飽和脂肪酸を多く含む植物油脂から動物性食品の香りを創り出す技術の開発に繋がり,プラントベースフード等のおいしさ向上に貢献することが期待される。

食品を製造する設備は製造過程に食品由来の油脂やタンパク質,また作業者や環境由来の微生物などにより汚染されている。衛生状態を維持するためには,日々の洗浄によってこれらの汚染物質を除去することが不可欠である。設備の洗浄には洗浄剤が使用されるが,洗浄剤の選定を誤ると洗浄が不十分になることがある。これは食品の二次汚染につながり,腐敗および食中毒のリスクが高くなる。従って,汚れを完全に除去することは,食品の安全性を確保する上で極めて重要になる。
本稿では,油脂を含む食品に焦点をあて,食品衛生に関連する洗浄の事例を示す。1つ目には,食品加工機器に油脂が残存すると,洗浄剤に含まれる殺菌剤の効果が低下し,微生物が生存しやすくなる問題について検討した。2つ目には,劣化した油脂が設備に残存すると,新しく使用する油脂の劣化が促進される事例について検討した。これら油脂が起因となる汚染から,食品の安全性を向上することを目的に,汚れの性質に基づいて適切な洗浄剤の検討を行った。
