新規開発した高強度かつ防汚性をもつUV硬化樹脂を用いて,ナノインプリント技術によりモスアイ構造フィルムを作製した。開発した高強度樹脂のUV硬化後の鉛筆硬度は平坦膜で9Hと非常に硬いものができた。また,作製されたモスアイ構造フィルムは可視光領域で0.3%の反射率を示し,スチールウールの擦過試験にも耐え,擦過前後でも水の接触角は150°以上の超撥水を示した。また,人工指紋液を用いた防汚性評価においても100回のふき取り後も低反射率を維持し,モスアイ構造も壊れていなかった。
色素や顔料は特定の波長の光を吸収することで発色する一方,光の波長程度の周期構造は特定の波長の光を反射することで発色する。本研究では,無色透明な水の中で,1%未満の微量な酸化チタンナノシートを規則正しく一定間隔に配列すると,鮮やかな構造色を示すことを見いだした。得られた微細構造は,ネオンテトラやルリスズメダイなどの熱帯魚の表面に存在する色素細胞(虹色素胞)の構造と類似しており,構造秩序性と流動性を兼ね備えるために環境の変化に応答して構造色を自在に変化させる。本稿では,酸化チタンナノシートの特徴,水中でナノシートを超長周期で配列させる方法,構造色の外部刺激応答性などについて解説する。
マツダは「カラーも造形の一部」という考えの下,魂動デザインの造形をより美しく見せる陰影表現を追求し,ソウルレッドプレミアムメタリック™,マシーングレープレミアムメタリック™を量産化してきた。
一般的に,発色や質感を高める場合は塗膜層を増やす手法が主流であるが,多くの塗料と塗装工程数が必要になり,環境性能と経済性が低下する。マツダでは地球環境に優しい塗装工程を目指し,環境負荷物質の排出量低減に取り組んできた技術を活かすことで,塗膜層の数を増やすことなく,高意匠カラーの開発を進めている。本稿では,進化した魂動デザインの造形をさらに際立てるソウルレッドクリスタルメタリック™を開発した取り組み内容を紹介する。
構造発色性材料は,安全な原料から合成でき,退色しにくいことから,新たな色材として注目を集めている。なかでも微粒子集積型の構造色は,粒子サイズに応じた多様な色を得ることができるなど利点も多く,発色原理の解析も急速に進展している。一方で,微粒子集積型構造色をコーティング膜として,塗装に応用するための検討は十分にはなされていない。筆者らはこのような背景において,泳動電着法に着目し,微粒子集積型構造色をコーティング膜として作製する手法の開発を行っている。シリカ粒子を用いて鮮やかな構造色を呈するコーティングができ,それが複雑形状表面にも適用可能であることを見いだした。さらに,電着条件の検討により,構造色の角度依存性を制御する技術や,コーティング膜の耐摩擦性を飛躍的に向上させる技術を実現した。
蛍光量子ドットは,電子材料やバイオ分野等,さまざまな応用が期待されているが,ガスセンサへの応用はほとんど未開拓であった。筆者らはCdSe系コアシェル型量子ドットの薄膜が,空気中のppmレベルのオゾンに感応して可逆的な蛍光強度の増減を示すことを見いだした。この結果は,蛍光量子ドットの光学式オゾンガスセンサへの応用可能性を示すものである。さらに,金や白金のような貴金属ナノ粒子を,量子ドット薄膜に複合化することにより,オゾンに対する感度や応答速度を,制御・向上可能であることがわかった。つまり,蛍光量子ドットと他成分のナノ複合材料化により,ガスセンサ材料としての可能性が広がることが示唆された。
ステンレス鋼の化学発色処理では,ステンレス鋼の材料ロットによって発色後の色調が異なるという問題が以前より指摘されていた。また,同じ材料でも表面状態によって色違いが生じたりといった問題もあり,その原因究明と対策が必要であった。本研究では,処理液組成などを改良し色調ばらつきの低減手法の検討を行った。