消化管癌は,消化管の内側に存在しており,消化管の外側からは位置の特定が不可能であるため,術前に内視鏡を用いて粘膜側からがん組織の近傍に滅菌処理した墨を局所投与し,がんの位置を特定できるようにする。しかしながら,墨は組織内を拡散しやすく,黒色で視認しにくい等の問題を有している。そこでわれわれは,四級アンモニウム基を有するポリカチオン含有組織接着性ポルフィリンを開発した。組織接着性ポルフィリンは,その分子中の多数の正電荷と生体分子中の負電荷との静電相互作用により,一週間程度,局注部位に残存し,赤色の蛍光を発する。本解説では,組織接着性ポルフィリンの組織マーキング剤としての特性に関してご紹介したい。
CAS Formulusは,医薬品,農薬,化粧品をはじめ,コーティング剤などの分野における,特許,学術文献由来の配合情報に特化したユニークな検索サービスである。配合の主成分だけでなく,添加剤や溶媒をはじめとするすべての成分や,配合剤の用途,成分の機能等,配合に特化したコンテンツを構築し,その観点を組み合わせた配合情報の検索を可能にした。また,各成分物質の名称や構造,分子式のほか,世界の既存化学物質リストや配合関連の各種規制での収録状況も一緒に確認できる。配合情報を項目別に並べて比較する表示や,成分を指定すると候補となる配合を自動で生成する機能が搭載されており,より効率的な配合情報の収集が可能になると期待される。
内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection,ESD)は,食道や胃,大腸などにおける早期消化管がんを内視鏡によって切除する低侵襲な治療法として注目を集めている。一方で,手術後に生じる合併症である瘢痕拘縮や穿孔,出血,狭窄などが臨床上大きな問題となっている。本研究では,生体組織に対して高い接着性を示すバイオポリマー微粒子を開発し,手術後の創傷被覆材としての医療応用研究を行った。ブタまたはタラ由来のゼラチンを疎水化した疎水化ゼラチンからなるバイオポリマー微粒子は,湿潤環境下において,高い組織接着性と水中での被覆安定性を示した。また,本粒子は,十二指腸に対して強固に接着し,穿孔を閉鎖できることが明らかになっている。さらに,ミニブタESDモデルにおいては,粒子によって潰瘍を保護することで,炎症を抑制できることを見いだした。内視鏡で容易に創部に送達可能な本粒子は,消化管がん手術後の瘢痕拘縮や狭窄,穿孔,出血などの合併症を予防する医療材料として有用であると期待される。
水性塗料のバインダーには,親水性基を有し水で希釈が可能な水性樹脂が用いられる。その水性樹脂には,合成後に水を加えるタイプと水の存在下で合成するタイプがある。自動車をはじめとした工業ラインでは,前者の樹脂から架橋により緻密で艶のある皮膜を得る塗料の実用化例が多い。一方常温乾燥する汎用分野では,後者の樹脂である乳化重合ラテックスから架橋に頼らない皮膜を得る塗料が用いられる。本講では水性塗料についてその構成と特徴,水性樹脂とその造膜について解説し,代表的な適用例を紹介する。
金属外装建材分野に使用する建築用アルミニウム合金材料の上塗り塗料には,溶剤系加熱硬化形塗料が採用されてきた。近年では地球環境の保全や人間の健康安全に対する世界的な要求から,日本国内では有機溶剤を含まない粉体塗料の適用を念頭にした研究結果が多く報告されている。
報告結果から熱硬化形ポリエステル粉体塗料は,熱硬化形ふっ素樹脂粉体塗料と比較して塗膜の下地基材への付着性および加工性は優れているが,耐候性に関しては熱硬化形ふっ素樹脂粉体塗料のほうが優れていた。
そこで著者らは下地基材への高い付着性および優れた耐候性の両立を目的に,熱硬化形ポリエステル粉体塗料,熱硬化形ふっ素樹脂粉体塗料,および樹脂特性が異なるポリエステルとふっ素樹脂から構成される層分離構造を有した混合粉体塗料の金属外装分野への適用について紹介する。
デジタルテキスタイルプリントとはスクリーンなどの版を使用せず,布にデジタルデータ(画像)を直接プリントする技術である。昨今の世界的な環境意識の高まりと,コロナ禍による消費者を取り巻く社会環境変化によりこの技術を活用したオンラインアパレルのニーズが急激に増加している。本稿では,現在市場にある多様化したデジタルテキスタイルインクジェットシステム(ヘッド,プリンタ等)を5種類に分類し,それぞれの基本技術と最新動向を解説する。