無機蛍光材料は単色性や耐久性に優れており,生体標識などへの応用が期待されている。本研究では,水酸化ユウロピウムナノロッド(europium hydroxide nanorod,ENR)の表面にヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite,HAp)を修飾することで生体適合性およびpH応答性を有する蛍光無機ナノロッドを作製した。HApの修飾には擬似体液に浸漬する方法および交互浸漬法(alternate soaking process,ASP)による方法を用いた。いずれの方法でもENRとHApとの複合化が見られ,とくにASPによる方法ではENRの表面すべてをHApが覆い,被覆量はASPのサイクル数に依存した。HAp被覆ENRがウシ血清アルブミンやシトクロムCなどタンパク質の吸着能をもつことを確認した。また吸着したタンパク質の放出挙動がタンパク質の等電点と溶液のpHに依存して変化することを見いだした。
本年度日本化学会が認定している化学遺産の第062号として,群馬大学理工学部に保管された染料コレクションが選ばれた。全部で4,390点を数えるこれらの多くはドイツやスイスから輸入された天然繊維用のもので,世界でも類を見ない膨大なコレクションとなっている。本稿では,これらの染料が集められた経緯と,コレクションの内容について詳説する。
ポリエステル系コアシェル型トナーのコア中に結晶性ポリエステルを高内包・高分散化させたLUNATONE(ルナトーン)は,100℃以下の超低温定着,およびトナー消費量の大幅低減を実現し,印刷時に使用するトナー由来のCO2排出量を従来から40%以上削減させることに成功した。さらに,100℃以下での定着が可能になったことにより,紙への印刷だけではなく,ラベル・パッケージなどに使用される弱熱フィルムへの印刷も可能となった。これにより,オフィス印刷はもちろんのこと,産業印刷分野での環境負荷低減にも貢献していく。
動作中の有機太陽電池の電子物性を評価するための変調分光法について述べる。変調光電流分光法と変調光起電力分光法を用いて,有機太陽電池の電子物性(電子・正孔ドリフト移動度,2分子再結合定数)を決定できる。これらの分光測定を,poly(3-hexylthiophene-2,5-diyl)(P3HT):[6,6]-phenyl-C61-butyricacidmethylester(PCBM)バルクヘテロ接合を用いた典型的な有機太陽電池で行った。電子物性に関する知見は,有機太陽電池の動作メカニズムの解明や光電変換特性の向上に重要である。また,本分光法によるさまざまな有機太陽電池の電子物性の蓄積は,材料設計にも有用である。
有機薄膜太陽電池は,塗布プロセスで作製でき,軽量,フレキシブル,光透過性といった特長をもつことから,次世代型太陽電池として期待されている。本講座では,筆者グループにおける有機薄膜太陽電池発電材料の開発,今後の展望について解説する。材料開発については,とくにエネルギー変換効率の向上に向けた,材料の結晶性や配向性制御について紹介する。