タンパク質やペプチドなどの生体高分子の生み出す精緻な構造や機能,高度な分子集合システムを手本としたナノバイオ材料の開発が精力的に進められている。本稿では,自己組織化ユニットとしての人工ペプチドの魅力について述べるとともに,筆者らが構築した三重らせん構造をモチーフとした芳香族環修飾コラーゲン様ペプチドの階層的自己組織化により生み出される多彩なナノ組織体について紹介したい。とくに分子構造と自己集合形態(高次構造)との相関性,光/温度などの外部刺激応答性やそれに基づく蛍光発光特性などを中心に述べる。
塗料に使用する樹脂は塗布が可能なように低分子であり,そのままでは塗料塗膜としての性能をもたない。塗膜性能を高めるためには塗膜状態での架橋反応による分子量増加が必須である。本稿では,この架橋反応のために添加される塗料用架橋剤に関する基礎的な知見と現在の進展状態を解説する。
1960~1970年代,インクジェットの基本的なアイディアの特許や論文が数多く登場し始め,1980年代に入りようやく各社から製品として第一世代のマシンが登場し始めた。だがその頃のマシンはインク滴を飛ばすこともやっとで信頼性も画質もスピードも価格も未熟なものであった。その後,インクジェットのもつポテンシャルを信じた多くの技術者たちがさまざまな挑戦と失敗を繰り返しながら技術を進化させ,今や家庭用から産業用まで幅広く応用されるようになった。本稿ではインクジェットの挑戦と進化の歴史を教科書などではあまり語られないようなエピソードを交えてご紹介したいと思う。
トヨタは環境チャレンジ2050を掲げ,工場から排出されるCO2削減に取り組んでいるが,その約22%は塗装工程からの排出である。
塗装工程からのCO2排出量削減のためには,塗着効率の大幅な向上が必須である。今回,従来のエアを使用した微粒化機構を廃止し,静電気の力を最大限に利用して塗装することで,塗着効率を圧倒的に向上させた超高塗着エアレス塗装機およびシステムを開発した。その結果,コスト低減だけでなく,塗装ブースのコンパクト化や水による未塗着塗料の回収システムを廃止可能な新しい塗装工程の導入を可能にした。今回,将来の塗装工場の景色を大きく変えることのできる,この塗料の霧化技術の基本としての「加工点」の大幅な変更開発におけるプロセスとその結果を紹介する。
アルミホイールの塗装前処理としては,素材保護として高い犠牲防食性能をもつ6価クロムによるクロメート化成皮膜が主流であった。しかし,2007年の欧州における「使用済み自動車による環境負荷低減に関する指令」(以降,ELV指令:End of Life Vehicles Directive)の施行を機に人体への有毒性から,完全クロムフリーへの切り替えが必要となった。バルクケミカルズでは,酸洗工程を追加したオリジナルのプロセスにより,6価クロム代替え材のジルコニウムまたはチタニウムを核としたクロムフリー化成皮膜でクロメート化成皮膜同等の性能と,意匠性の実現を可能にした。さらには,近年のアルミホイール塗装における環境対応と,高機能・高意匠性両立のニーズに対し,前処理技術の対応として,オリジナルのプロセス管理システムの開発による解決策を紹介する。