金属ペーストは,バインダーとして高分子樹脂を含む粘性の高い流体である。バインダー樹脂はペースト中に含まれる粒子の基材に対する密着性を高めるために使用されている。ペースト乾燥後において,乾燥物中の金属粒子の分布は,ペーストの最終的な機能に対して重要な役割を果たす。本研究では,バインダー樹脂の相分離が金属粒子の分布に与える影響に着目した。このような研究では,金属粒子とバインダー樹脂の空間分布を同時に明らかにする必要がある。そこで,金属粒子とバインダー樹脂との表面弾性率差に基づいて,両者の分布を調べることにした。表面弾性率は,原子間力顕微鏡を用いたナノ触診法により測定した。バインダー樹脂の相分離は,金属粒子の分布に影響を及ぼすことを示唆する結果が得られた。
皮膚洗浄剤に重要な性能は,皮脂洗浄力性と肌へのマイルド性である。皮脂汚れは,一般的には界面活性剤を用いて,手やタオルなどで「こする」ことで除去される。しかしながら界面活性剤は疎水界面である「皮脂」と「肌」を区別することはできないため,洗浄力の高い界面活性剤を用いると肌への刺激が強く,トレードオフの関係にあることが知られている。
それに対して近年筆者らは,アルキルエーテルカルボキシレート塩(EC)が皮脂洗浄力性とマイルド性を両立することを見いだした。それは,ECの分子構造に由来した界面化学的性質により制御された,これまでにはない洗浄システムにより発現することがわかってきた。
自動車向け新色開発は,自動車会社から提示された目標となる色や質感,または当社のカラーデザイナーが独自に検討して導き出した目標意匠を実際の自動車に塗装できる性能へと高めながら自動車会社のデザイナーが納得する意匠を開発し提供することである。そのような中で,当社のカラーデザイナーには自動車に塗装されたときの色の見え方を見据えた配合コントロールや色材適用能力が求められる。より迅速かつ的確な塗色開発を行うために自動車ボディ形状の違いによる色の見え方の違いを簡易的にシミュレーションできる「面質感CSX」を開発した。本報告では,その表現方法について紹介する。
タマムシの構造色を再現する模倣タマムシのバイオミメティック研究を行っている。タマムシより表面構造を転写したレプリカ表面にコロイド結晶薄膜を形成すると,入射光の一部が選択的に反射(可視光のブラッグ回折)して構造色が発色する。塗工対象物を粒径の揃ったコロイド粒子のサスペンションに浸漬し表面にコロイド結晶薄膜を成膜する。開発された塗工技術は凹凸のある湾曲表面にもコロイド結晶薄膜を成膜できるので多種多様な塗工対象物の表面の構造色の塗工が可能である。また,コロイド粒子の粒子径を変更するだけで,紫から赤まで幅広い色彩の構造色の塗工が可能である。新しい構造色の加飾法として期待できる。
近年,電動車などの環境対応車においても炭素繊維複合材料(CFRP)が採用されるようになった。軽量化により,走行時のCO2排出量の規制に対応するためである。ただ,CO2は走行時だけではなく,素材製造時にも発生する。残念ながらCFRPをはじめ軽量構造材料はその素材製造時のCO2排出量は比較的多い。そのため,将来に向け,軽量化だけではなく,LCAを考慮した素材開発も必要になる。
分散には今から57年前に出された“分散の三要素”という概念がある。この概念は非常に古いが現在でも十分に使える考え方である。この概念を使いこなすと再凝集のない安定な分散体を得ることができる。この講ではこの概念を実行するのに必要な界面活性剤の基礎知識,被分散体である粉末の物性およびこれらの関連性を紹介する。