水溶性のポリエチレングリコール(PEG)と,複数のイオン性ポリアミノ酸(PAA)からなるブロックポリマーを精密に合成し,PAA末端に重合性官能基を定量的に導入した。また,水中でミセルを形成させた後に,コア内部での重合により,安定なナノ微粒子の調製を行った。PAAとして,アニオン性のポリグルタミン酸,カチオン性のポリリシン,疎水性のポリアラニンを選択した。目的の形状を形成後にPAAの疎水性保護基の脱保護反応により,ゲル化を抑制できるイオン性の導入方法を検討した。会合状態での脱保護反応により,PEG鎖の分散安定性によりイオン性が安定し,複数のイオン性の導入が可能になると考えられる。ゼータ電位と分散性の変動の結果から,微粒子に複数のイオン性を導入できることが示された。このように,PEG-PAAにより,ナノ粒子や材料にイオン性が導入できる可能性が示唆された。これらのポリマーやナノ粒子は,医療,化粧品,インクや塗料などの材料として有望である。
生体分子・細胞を忌避する表面コーティングは医療,工業,生活空間にいたるまでさまざまな分野で求められている。しかしながら,それらのコーティング材料の開発は依然として困難な場合が多い。その理由として,抗付着性のメカニズムに関して不明な点が多いことが挙げられる。ここでは最も単純な系である自己組織化単分子膜に注目し,その「生体分子・細胞が表面を嫌がる」メカニズムを界面における相互作用という観点から議論する。加えて,情報科学の手法による抗付着性をもつ表面設計に関しても述べ,今後の材料設計の展望に関しても述べる。
日本に静電塗装が紹介されてから60年の節目を迎えるにあたり,工業塗装を取り巻く環境の変化に対応しながら進化してきた静電塗装機器について自動車産業を中心に振り返る。
前編では,各年代に起きたニーズ,とくに直材費削減,仕上がり品質向上に応じて開発されてきたベル型静電塗装機の変遷をたどる。後編では,エネルギー削減,環境負荷低減に応じて開発されてきた変遷の紹介から,さらには,国際的な取り組みである「カーボンニュートラル」や「カーボンネガティブ」を目指す社会活動GX(グリーントランスフォーメーション)に貢献するために今後どのような方向に進んでいくかについて報告する。
現在,世界で最も高性能な太陽電池はⅢ-Ⅴ族化合物半導体多接合太陽電池である。その高性能性からとくに宇宙用として利用されているが,高性能・高機能である代わりに製造コストが大変高いという問題があり,市場規模は小さいものとなっている。本稿では,Ⅲ-Ⅴ化合物多接合太陽電池の開発状況やその問題点と,われわれが現在進めている低コスト製造技術について述べる。Siなどの汎用の太陽電池とⅢ-Ⅴ族を簡便に接合できるスマートスタック技術と,低コストでⅢ-Ⅴ化合物半導体を結晶成長できるハイドライド気相成長法について述べ,Ⅲ-Ⅴ化合物多接合太陽電池の今後の応用展開などについても言及する。
量子閉じ込め効果など量子ドットが示す物性の多様性は,基礎研究の対象としても,機能性材料やデバイス応用などの点からも興味深く,適応領域が多岐にわたる。本稿では,コロイド量子ドットを光電子デバイス材料として用いることを念頭におき,その有用性や高機能化に向けた課題を解説する。また,太陽光フルスペクトル利用に資する広帯域光電変換の可能性など,コロイド量子ドットの特徴を活用した太陽電池応用の現状と今後の展望を紹介する。