青色蛍光性ベンゾトリアゾール誘導体の光安定性向上にかかわる知見を得るために,それらと紫外線吸収剤である2-(2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール成分(以下2HPBTA)をエステル結合で連結したダイアド分子を合成した。ダイアド分子は青色蛍光を示したが,それらの蛍光量子収率は2HPBTAをもたない青色蛍光性ベンゾトリアゾール誘導体に比べて低下した。ダイアド分子では励起状態分子内プロトン移動(ESIPT)が熱力学的に許容であり,放射失活を阻害する要因となることが量子化学計算で予想された。これら分子を含む高分子フィルムは青色蛍光を示したが,紫外線の連続照射後にそれらの蛍光強度は低下した。この結果から,エステル結合で連結された2HPBTA成分は,ダイアド分子の光安定性に影響しないことが示唆された。一方,青色蛍光性ベンゾトリアゾール誘導体のベンゼン環上の置換基は,ダイアド分子の蛍光強度に大きく影響することが明らかとなった。
電子機器の回路形成に応用するため,銅板表面と液とのぬれ性向上を目的に,銅板表面上にトリアジンチオールを末端にもつオリゴ(2-メチル-2-オキサゾリン)(OMeOZO)というテレケリックスの被膜を形成し,その被膜について検討を行った。実験は,まずメチルオキサゾリン(MeOZO)のカチオン開環重合により得られたリビングOMeOZOとトリアジンチオールとの反応により,OMeOZOテレケリックスを合成した。また,比較のためMeOZOとトリアジンチオールを1:1で反応させたモノMeOZOテレケリックスも合成した。次に,銅板をテレケリックス溶解液に浸せきして被膜処理を行った。この被膜処理は,試薬の添加手順の異なる二種類の方法により行った。処理銅板表面の性状の変化は,銅板表面の水に対する接触角測定,原子間力顕微鏡(AFM)観察およびX線光電子分光(XPS)分析により調べた。その結果,未処理銅板に比べ処理銅板表面の接触角が著しく減少し,表面の親水化が確認された。さらに,AFM観察とXPS分析により処理銅板表面上の生成テレケリックス被膜の状態を明らかにした。
自動車ボデー塗装における外観品質として肌(波長1~5 mmの凹凸),光沢(波長0.1 mm以下の微細な凹凸)およびメタリック色の色調を取り上げ,その形成機構の概要およびこれにかかわる上塗り塗料の塗装工程(スプレー,乾燥,焼付けからなる)でのレオロジー特性を解説した。外観品質にとって,スプレー時における粘度のせん断速度依存性,乾燥時における粘度の時間依存性と不揮発分濃度依存性,焼付け時における粘度の温度依存性,架橋・硬化反応による粘度変化(流動停止のタイミングを含め)が重要である。さらにウェットオンウェット積層塗膜では,乾燥,焼付け時に起こる溶媒,中和剤などの低分子量成分の層間移行がレオロジー特性に及ぼす影響を把握する必要がある。
エポキシ樹脂は優れた接着性をもち,機械強度,電気絶縁性,耐熱性,耐薬品性,耐湿性,寸法安定性を有することから,さまざまな用途に使用されている。塗料用途では,飲料缶(外面・内面塗装),自動車(ボディの下塗り)など。電気電子用途では,半導体向けの封止材,積層板など。土木・建築用途では,床材,ライニング材,レジンモルタル材など。複合材料では炭素繊維,ガラス繊維などに使用されている。その原料となるエポキシ樹脂は多様であり,また硬化剤や触媒,フィラーなど,組み合わせによって所望の物性をデザインすることができる。本稿では,エポキシ樹脂の概要や硬化反応とともに,塗料用のエポキシ樹脂について紹介する。
インクジェット印刷の商業用途への応用が進み,高速化だけでなくさまざまな基材への印刷需要も高まるなど,インクやシステム設計は複雑化している。そのような状況下で効率的に開発を進めるために,インクジェット技術に関連するさまざまな数値解析技術が提案されている。本稿ではインクジェットプロセス最適化のために,液滴吐出から着弾までの現象について自由表面シミュレーションと粒子シミュレーションを組み合わせて解析する手法を紹介した。これにより,実験や試作に先立ってシステムや印刷品質の評価が可能となった。