DCI-P3に代表される広色域規格でディスプレイを設計するために,カラーフィルタ用顔料に対して色再現性の向上が期待されている。これまで,色再現性を比較評価するための方法が明確でなかったため,広色域カラーフィルタに使用する顔料の選定において,試行錯誤を余儀なくされていた。本報では,緑色顔料と黄色顔料の配合比を変更しながら,膜厚を統一した色度のプロットを作成することにより,カラーフィルタ用顔料の色再現性を比較した。比較の結果,C.I. Pigment Green 58よりも,C.I. Pigment Green 59の色再現性が優れることを確認した。そして,色再現性評価をもとに,吸収特性を調整することにより,C.I. Pigment Green 59の新製品FASTOGEN Green C300を開発した。FASTOGEN Green C300を用いると,既存品であるFASTOGEN Green C100よりも,DCI-P3の色度座標をより薄膜で表示できることを確認した。
アルミニウムを電解質水溶液に浸漬して陽極酸化すると,アルミニウム表面に不動態皮膜である陽極酸化皮膜が生成する。酸性水溶液を用いて陽極酸化することにより得られるポーラス型陽極酸化皮膜(ポーラスアルミナ,アルマイト)は,ナノスケールの細孔が規則配列した特徴的なハニカムナノ構造をもち,耐食性の向上,着色,ナノテクノロジーなど,幅広い工業分野に応用されている。本論文においては,アルミニウム表面における電気化学の基礎と,陽極酸化の科学と技術に基づく最近の興味深い研究についてご紹介したい。
ソフトマターは与えられた外力に対して特異な応答を示す。この性質を利用し,洗剤や化粧品,ゴムタイヤ,液晶ディスプレイなどさまざまな機能性材料として用いられている。これらの材料の性質は分子構造だけでなく,それらが集まって形成される自己集合構造にも強く影響することが知られている。ゆえに所望の機能をもつ材料の設計には,ソフトマターの自己集合構造を予測・制御することが重要となる。われわれは粗視化分子シミュレーションを用い,さまざまなソフトマターの自己集合挙動,さらには自己集合構造と物性の関係性について研究してきた。ここではこれまで取り組んできた研究の中からいくつかについて紹介する。
銀塩写真や電子写真の代替として,インクジェット記録は,家庭でのハガキや写真出力,オフィスでのデータ出力や業務用でのミニラボ機による写真出力,ポスター等の大判出力,商業用のオンデマンド印刷と多岐にわたって利用できる汎用性の高い記録技術である。これらの用途に対して,常に安定した品質を得るには,ハード(プリンタ)やインクに加えて,メディアも重要となる。メディアでは,文字および写真画像品質を向上させるためさまざまな素材を使用している。また出力する画質のグレードに応じた多種多様のメディアが存在している。本稿では,インクジェットメディアの基本的な技術情報や最近の動向について解説する。