酸化鉄の中で,最も安定でこれ以上錆びることがないヘマタイトは色材として魅力的であるため,赤色無機顔料としてわれわれの身の回りの製品に幅広く使用されている。ヘマタイトが活用されている多くの分野において彩度を向上させたいという要望があるが,高彩度化にはさまざまな困難がある。ヘマタイトの彩度を制御し色材として活用するためには,ヘマタイトの結晶構造,電子状態,彩度の制御因子,光触媒活性などを全体として理解して,新しいヘマタイトを合成することが求められる。本論文ではヘマタイトの色を理解し新しいヘマタイト赤色顔料を開発するうえで必要な情報を整理した。
酸化亜鉛をリン酸に加え,湯浴中で振とうすることにより,表面をリン酸塩へと反応させ,光触媒活性を抑制した新規白色顔料の作製を行った。この処理における条件として湯浴の温度,リン酸のpHなどについて検討し,さらに縮合リン酸塩を用いた作製についても検討した。得られた粉末試料の化学組成,粒子状態,光触媒活性などを評価した。
従来の無機顔料には重金属を含有するものが多く,その有害性から使用が制限されていくことが予想されており,既存顔料を代替可能な新規な優環境型無機顔料の早急な開発が望まれているが,無害な元素のみを用いて鮮やかな有彩色の発色を得ることは難しく,構成元素だけでなく顔料の結晶構造を適切に選択したうえで,発色源を含有する配位サイト周囲の環境を制御する必要がある。本稿では,筆者らの研究グループにおいて結晶構造とその制御方法に着目して行われた新規無機顔料開発の中で,青色無機顔料に関する最近の研究成果について紹介する。
日焼け止めやメイクアップ化粧料において,マイクロプラスチックビーズは,感触改良剤として広く使用されている。しかし近年は,マイクロプラスチック(MP)の環境流出による海洋汚染が国際的な問題として注目されており,MPビーズの代替原料が求められている。そこでわれわれは,この問題を解決すべく,環境に優しい素材としてシリカに着目し,感触特性に優れる球状シリカを開発した。そして,この感触特性に優れたシリカ粒子に対してベヘニルアルコールとジステアリルジモニウムクロリドを併用した複合多層処理を施すことで,MPビーズに近い「柔らかさ」をもつ,表面処理球状シリカの開発に成功した。
量子ドット(QD)や有機EL(OLED)のような鮮やかなディスプレイに対応するため広色域なプリント画像の設計が望まれる。昇華転写プリンタの諸特性を満足する新規色素開発は難しく,数十年まったく変化はない。本報では,広色域昇華転写プリンタ用の高彩度および高耐光な新規油性色素の開発に関して報告する。すなわち,アザメチン系マゼンタ色素(AZD-70),アゾメチン系シアン色素(CAZ-19),アゾ系イエロー色素(PAY-161)を主M・C・Yの色材として設計・合成した。新規染料を昇華転写インクリボンに適用することで,IJプリンタ同等の色域体積が表現可能となった。印画テストにおいて,実画像(モルフォ蝶,レモン,イチゴ)は高彩度化し,実画像(ベタ)のブラック濃度は著しく向上した。同色素はAmes試験陰性であった。また同色素が,トナー設計に活用できること,超臨界二酸化炭素条件でポリプロピレン繊維の染色が可能であることを確認した。