紙の引張強度向上をはかる目的で三種類のメトキシシラン(テトラメトキシシラン(TMOS),メチルトリメトキシシラン(MTMS),ジメチルジメトキシシラン),2種のオリゴマー(TMOSオリゴマー,MTMSオリゴマー),および反応促進剤としてチタンブトキシドを用いた反応液を原紙に含浸させた。メトキシシランの場合,最高の含浸量を与えたのはTMOS溶液であり7.2 g/m
2であった。また,最高の引張強度はMTMS溶液であり4.3 kN/m(原紙の130%増)であった。一方,オリゴマーの場合,含浸量および引張強度ともに最高値を与えたのはMTMSオリゴマー溶液であり,それぞれ50 g/m
2と6.8 kN/m(200%増)であった。全体的にオリゴマー溶液と比較してモノマー溶液が低い値になったのは,モノマーの揮発性の高さに起因し,十分な塗工量が得られず低い値になったものと思われる。MTMSオリゴマー溶液が最も高い値を与えた理由は,その分子構造に由来するものと推測した。すなわち,MTMSはその分子内に1個の非加水分解性置換基(メチル基)と,3個の加水分解性置換基(メトキシ基)をもっているため,得られた高分子鎖はメチル基由来の柔軟性とメトキシ基由来の硬さのちょうど良いバランスをもっているものと推測した。重合度の異なるMTMSオリゴマー(n=3.1,4.4,6.3,8.7,12.4,26.1)を用い,重合度と引張強度の関係を調べたが,ほとんど差はなかった。
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