地球上の水循環をモニタリングする上で,人工衛星による地球観測は重要なツールである。地球上の水循環を考える中で淡水のリザーバである極域の雪氷は現在進行している地球温暖化の下でその動態が大きく変化しており,海水準変動への寄与という形で,人類共通の喫緊の課題として認識されている。本論文では,極域の変動を把握するためのツールとして,また衛星地球観測が捉えたトピックとして,北極海氷や陸上積雪の推定手法や,極地氷床の質量やアルベドの変化を解説する。また,その変化を捉えるための礎となる現場観測とあわせて,極域の水を巡るこれまでの取り組みについて紹介する。
健全な水循環を促進し都市の水課題に対処するために,雨水を排除せず利用したり,ゆっくり流す「雨水活用」の概念が注目されている。日本における雨水の貯留と利用の現状,タンク内雨水の水質について紹介するほか,東京都墨田区での取り組みに焦点を当て,都市部での小規模分散型雨水管理の進展と課題に言及する。今後の取り組みとして,タンク内の水量の適切な管理や流出抑制効果の検証,それに基づく運用規程の策定をめざす。またグリーンインフラやネイチャーポジティブといった環境対応に関する世界的潮流を踏まえて,自然と調和しながら,雨と共生する持続可能な都市環境の実現に向け,市民ができる取り組みを紹介する。
生物難分解性の染料を含む排水は処理の難しい排水として,さまざまな水処理技術の開発ターゲットとなってきた。一方,塗料は呈色成分を懸濁物質として含むため,その分離除去が処理の中心であったが,凝集沈でん法で除去できない溶解性の成分への対応が必要となる機会が増えている。生物難分解性の物質の処理に促進酸化処理が検討される機会も増えてきたが,コスト面の課題を抱えている。凝集沈でん,生物処理,オゾン処理,促進酸化処理,吸着処理などの水処理方法の染料・塗料含有排水への適用について概観する。
アナモックス処理法は新しい省エネ・低炭素型生物学的窒素除去プロセスとして注目され,近年応用研究が進んでいる。アナモックス細菌の特徴は嫌気性独立栄養細菌であり,増殖速度はきわめて遅く,また環境条件に敏感なため,阻害発生や汚泥流失等の不安定性要因を制御することが重要である。本稿では,アナモックス法の生物学的原理とプロセス構成を紹介し,その応用と研究開発の現況をまとめつつ,窒素とリンの同時除去が可能なPNA-HAP型一槽式部分亜硝酸化アナモックス法や一槽式部分脱窒型アナモックス(PDA)法等の新しいプロセス開発の成果を総説し,今後の実装応用について展望した。