γ-Ce2Mo3O13,Ce8Mo12O49,およびCe2Mo4O15の単相粉末を,固相法により合成した。また,ノンエンベロープ型ウイルスであるバクテリオファージQβと,エンベロープ型ウイルスであるバクテリオファージΦ6に対するこれらの粉末の抗ウイルス活性を評価した。さらに,H2O2生成量の評価とカタラーゼ不活化試験を実施した。調製したサンプルの抗ウイルス活性は,バクテリオファージΦ6に対する活性が,バクテリオファージQβに対する活性よりも高かった。バクテリオファージΦ6の抗ウイルス活性の順序は,生成されたH2O2の量およびカタラーゼ不活性化率,溶出したCe/Mo比に依存した。これらの結果から,バクテリオファージQβに対する抗ウイルス活性が,希土類イオンによるカプシドの負電荷の中和とウイルスの特定の部位へのヘテロポリ酸の吸着によることが示唆された。また,Ce(Ⅳ)またはH2O2の酸化反応,およびCeとモリブデン酸イオンによって形成されるヘテロポリ酸の吸着がバクテリオファージΦ6に対する抗ウイルス活性に影響を与えることが考えられた。今回検討した化合物の中で,γ-Ce2Mo3O13はバクテリオファージΦ6に対して最も高い抗ウイルス活性を示した。
スティック化粧品には,オイルとワックスから構成されるオイルゲルが基剤として使われている。近年,石油由来のワックスを植物ワックスに変更することが望まれているが,既存の植物ワックスのみでは十分なゲル硬度が得られない。そこで,高純度の植物由来ワックスであるライスパラフィンワックス(RPワックス)を基に,これに他の植物ワックスを混合することでのゲル骨格の変化ならびにゲル硬度への影響を調べた。
RPワックスのオイルゲルの硬度は石油由来ワックスよりも低かったが,これはゲル構造を形成する板状結晶が粗大なためであった。 植物ワックスのカルナウバワックスならびにコメヌカワックスはさらにゲル硬度が低かった。これは不均一な球状クラスターがゲル内部に形成するためであった。一方,RPワックスにカルナバワックスを20%混合すると,ゲル硬度が大幅に向上し石油由来ワックスに匹敵するレベルとなった。これは,ゲル中の板状結晶のサイズが微細化し,かつ植物ワックス由来の球状クラスターは存在しないためであった。このゲル硬度上昇効果は,コメヌカワックスのRPワックスへの添加では見られなかった。
化粧品用紫外線吸収剤としての応用が期待されるフェルラ酸-シリカ複合体について,吸着量を向上させるため,貧溶媒析出法を用いた調製法を検討した。一般的な方法で調製した場合と比較して,フェルラ酸吸着量が5倍に増加し,現行の紫外線防御剤と同程度の紫外線吸収能を得られた。
タカキビの殻から抽出した3-デオキシアントシアニジン色素と,弱酸性緩衝液とジプロピレングリコール混合液からなる色素溶液はフォトクロミズムを示す。この天然フォトクロミック色素を工業的に利用するには,溶液のゲル化あるいは粉体へ吸収などによって固形化することが必要だが,その製造過程などで溶液組成の変化が生じ,フォトクロミック性能が低下することが懸念されている。本研究では,色素溶液の組成変化,すなわち溶媒の揮発,水や酸・塩基および多価カチオンの混入がフォトクロミック性能にどのような影響を与えるかを調べた。
過酷条件に置くことで色素溶液からほとんどの水が蒸発しても,フォトクロミック性能に変化は見られなかった。しかしながら,多量の水や濃度の高い酸,塩基などが溶液に混入すると,色素溶液のpHが変化し,それにともなってフォトクロミック性能の低下が見られた。さらに,多価カチオンが色素溶液に混入した場合は,少量のカチオンでも溶液はより酸性へと変化し,フォトクロミック性能が顕著に低下した。この場合,溶液調製に使用する緩衝液を少し塩基性のものへと変更することで,フォトクロミック性能の回復が可能であった。
インクジェット方式を用いた産業用プリンタや3Dプリンタなどモノづくりのためのプリンティングシステムの提案や開発が活発に行われている.このような応用においては,多様なインクをプリンティングの仕様に合わせて印刷するプリントヘッドが不可欠である.ピエゾ方式のインクジェットヘッドは,圧電材料の改良,製造プロセスの開発や制御方式の開発などさまざまな技術の開発により,プリンティングの要求仕様を満たすように発展してきた.
本稿においては,圧電材料の基礎,ヘッド構造の種類と特徴,ヘッド作製プロセスの特徴などピエゾ方式インクジェットヘッドの進化を支えた技術について解説する。