言うまでもなく,醸造・発酵産業は根源的に微生物の営みに依存しており,新たな微生物の導入は,新たな展開の可能性を意味する。NBRCは我が国を代表するカルチャーコレクションとして,多くの貴重な微生物資源を擁しており,微生物の探索先として大きな魅力を発している。今回,ケカビ類を例に用途や菌株について,また,酵母を例に菌株情報の検索について紹介いただいた。新たなデータプラットフォーム「DBRP」も将来性を感じさせる。NBRC産業利用のすすめとして一読いただきたい。
ナトリウムの過剰摂取は高血圧の原因となり,様々な疾病のリスク要因となっている。日本人の食塩摂取量は徐々に減少しているものの,厚生労働省が目標とする摂取基準とは大きな乖離がある。本稿では,国内外における減塩政策についてまとめると共に,食品企業における減塩関連研究,減塩食品開発事例について解説して頂いた。醤油や味噌など,食塩を利用した醸造食品製造に携わる方々には必ず目を通して頂くようお願いしたい。
本研究では,D-アミノ酸を生産する乳酸菌を迅速に分離するために,アミノ酸オキシダーゼを利用してD-アミノ酸を測定する方法を開発した。また,これを用いD-アミノ酸を高変換する乳酸菌のスクリーニングを行った。米や麹,根菜類から分離した乳酸菌179株中,4株はD-アミノ酸の変換率が,2.0 %以上であった。特に根菜類の表層から分離されたZH-2の変換率は高かった。
清酒醸造などの実用化に向け,この株の生産条件や培養中での変換量について検討した。この株は,パントテン酸を含む1.0 %グルコースと1.0 %ペプトンのGYP培地中で24時間以上培養することでD-アミノ酸が高生産した。ZH-2株は,10~37 ℃で生育し,Lactobacillus sakeiと同定された。ZH-2株の菌体内ラセマーゼはアラニン対し反応性が高く,ついでセリン,グルタミン酸,アルギニン酸,プロリン,ロイシンであった。
以上の結果から,D-アミノ酸高変換能が高い乳酸菌ZH-2株が得られたと考えられた。
1 紅麹菌M. purpureusに含まれマウスマクロファージRAW264.7によるNO産生を抑制する物質としてエルゴステロールをGC-MSにより見出した。
2 食品に多く使われている,紅麹菌M. pilosusにも同様にエルゴステロールが含まれていることをGC-MSおよび1H NMRにより発見した。
デンプンの老化は清酒醸造において重要な米の溶解性に影響を及ぼすが,蒸米吸水率の違いの影響は明らかにされていなかった。そこで,白米水分や吸水率を変えて蒸米吸水率を変化させた米を気中放置し,酵素消化性とデンプンの老化の関係を調べた。その結果,白米水分や吸水率を変えて蒸米吸水率を変えたどちらの条件でも,気中放置時間が短いと蒸米吸水率が高いほど酵素消化性が高かったが,蒸米を4時間以上気中放置すると蒸米吸水率が高いとデンプンの老化が進みやすく酵素消化性が低下しやすくなることが明らかになった。また,蒸米気中放置時に異なる湿度環境下に放置し水分を揮散させたところ,水分の揮散が多いほどデンプンの老化及び酵素消化性の低下はゆるやかになることが明らかになった。以上から,蒸米の吸水率がデンプンの老化と酵素消化性に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。